巻ノ百四十二 幸村の首その七
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「そうされるでしょう」
「そうか、そちらに向かうか」
「そうかと、ですから」
「明日はか」
「城自体は楽に攻め落とせるでしょう」
これ自体はというのだ。
「真田殿がおられないのでは」
「それはよいがな」
「はい、しかし真田殿の働き自体で」
秀頼はというのだ。
「そうなるでしょうが。大御所様としては」
「それならそれでよい」
「右大臣様はですな」
「太閤様に言われたことは忘れぬ」
決してとだ、家康は服部に述べた。
「右大臣殿を頼むとな」
「臨終の床で、ですな」
「言われた、だからな」
「それで、ですな」
「約束は守るものじゃ」
家康は律義者だ、このことは幼い頃から変わることがない。その為に天下の諸大名や民達に信頼されているのだ。
それ故にだ、今もこう言うのだ。
「さもなければ何も成らぬわ」
「不信になるからですな」
「信じられぬ者の言うことなぞ聞かぬな」
「はい、誰も」
服部もこう答えた。
「そうしたことは」
「そうじゃ、戦国の世のならいは騙し討ちであったが」
「裏切りと」
「そうしたことばかりの者なぞ誰も信じぬ」
それこそというのだ。
「そしてそうした者が天下人であるならな」
「天下もですな」
「泰平にならぬ、だからこそな」
「右大臣殿は」
「その命は奪いたくはない」
決して、という言葉だった。
「わしにしてもな」
「だからですな」
「あの者が右大臣殿を助けるならじゃ」
「見過ごされますか」
「そうする、無論わしも助命は言う」
秀頼のそれをというのだ。
「すんでのところでもな」
「そうされますか」
「もうここに至ってはすぐに大名として遇することは無理がある」
戦もここまで進めばというのだ。
「どうしてもな、一旦高野山に蟄居としてじゃ」
「それからですか」
「わしが死んでからでよいか、竹千代に伝えておく」
秀忠、将軍である彼にというのだ。
「わしが死ねば恩赦ということでな」
「右大臣殿の罪を解き」
「そうしてからじゃ、大名に戻す」
「そうされますか」
「それでよい、とにかくわしは天下人になったが」
「太閤様とのお約束については」
「忘れておらぬし破るつもりはない」
それはというのだ。
「一切な」
「だからですか」
「右大臣殿の命は奪わぬ。大坂を貰う」
ここでも大坂だった、やはり家康が欲しいのはこの地だった。
「それだけのことじゃ、しかし城はな」
「攻め落としますな」
「そうする、明日は総攻めじゃ」
それにかかるというのだ。
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