第三章
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「海の声も」
「ここにいてもなんだ」
「聞こえるわ、静かで奇麗な声が」
「そうなんだ」
「山でも聞こえるのね」
潮音は微笑んでこうも言った。
「そうなのね」
「海の傍だからね、この山も」
「それでなのね。ここにいたら」
「どうかな」
少年は海を見下ろす潮音に尋ねた。
「この光景は」
「奇麗ね、またね」
「観たいよね」
「海が観て欲しいって言ってるわ」
「海がなんだ」
「ええ、だからまた観たいわ」
潮音は少年に対して答えた。
「本当に。だからね」
「それでなんだ」
「また観たいわ、じゃあまたね」
「うん、この山に登ろうね」
「そうさせて。ただ」
「ただ?」
「貴方も一緒ね」
潮音は少年を見て彼に尋ねた、今度は彼女が尋ねた。
「そうよね」
「駄目かな」
「いえ、お願いさせてもらうわ」
これが潮音の返事だった。
「貴方の気持ちもわかったから」
「というと」
「私に声をかけてきたのもよくお話をしたこともここに案内してくれたことも」
全てとだ、潮音はわかったのだ。それが海の声が今彼女に教えてくれたことだった。
「わかったわ、だからね」
「いいんだ、それで」
「この海を見せてくれたから」
それならとだ、潮音は少年に答えた。
「お願いするわ」
「よかった、じゃあね」
「また今度ね」
「一緒にここから海を観ましょう」
潮音はここで微笑んだ、そうしてだった。
二人の交際がはじまった、やがて少年は地元の水産工場で働く様になり潮音は神社の巫女になった。二人は共に海の傍で過ごしてお互いに離れることはなかった。
潮騒の娘 完
2018・6・28
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