第一章
[2]次話
潮騒の娘
湊潮音はいつも海を見ている、神秘的な美貌はいつも多くの男子生徒達に注目されている。だが潮音はその目を意識することはない。
その彼女についてだ、周りの者はよくこう言っていた。
「いつも海を見ているけれど何かあるのか?」
「海に何か思い入れがあるのか?」
「海から離れようとしないけれど」
「海の近くから離れると体調が悪くなるみたいだし」
海辺の町にいる彼等でも思うことだった。
「何か普通の娘と違うな」
「そうだよな」
「一体どんな娘なんだ」
「よくわからないな」
「人付き合いもしないし」
「どういった娘なんだ」
誰も彼女のことを知らない、そしてあれこれ思うが彼女がどういった人間なのか誰もわからなかった。
しかし潮音は今も海を見続けてその傍にいる、夏も冬も。そうしている彼女にだ。
ある転校生が声をかけた、それは明るい少年だった。
「いつも海観てるよね」
「ええ」
潮音は少年の方を見ずに答えた。
「そうしているわ」
「海好きなんだ」
「好き。というか」
「というか?」
「離れられないの」
こう少年に話した。
「私は」
「離れられないって」
「海から離れたら体調が悪くなるから」
「その話本当だったんだ」
「どうしてかわからないけれど」
自分でもというのだ。
「水や海の声も聞けるし」
「それって何か妖精みたいだね」
「私は人間よ」
潮音はこのことは確かだと答えた。
「それは言っておくわ」
「そうだよね。何かこの世の人じゃない感じだけれど」
「私は人間だから」
「わかってるよ、心が人間なら人間だからね」
「心が」
「心が化けものなら人間の姿形でも化けものだからね」
少年は潮音に笑って話した、夕暮れの海岸に学校帰りに一人立って海を見続けている彼女に対して。
「だからね」
「私は人間だっていうの」
「僕はそう思うよ、それで海をなんだ」
「ええ、こうしてね」
「いつも見ているんだ」
少年はまた潮音に尋ねた。
「今みたいに」
「そうしているの。水は私の全てだから」
「海はなんだ」
「湖も川もだけれど」
そうした場所もというのだ。
「お池も」
「とにかくお水はなんだね」
「私にとって全てで」
「その声も聞こえるんだ」
「そんな感じがするの」
「成程ね、それじゃあお水から離れたら」
「私は駄目になるわ」
こうも言うのだった。
「本当にね」
「それで今も見ているんだ」
「傍にいてね」
「それは明日もかな」
「そうなるわ、それで貴方は」
「いや、君の噂を聞いてさ」
見ればやや小柄で明るい顔立ちをしている、癖のある赤髪で動作はかなり激しく剽軽な感じがする。
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