ある憲兵隊員の憂鬱
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こは簡素な会議室であった。
部屋の主の趣味なのだろう。
余計な飾りつけや装飾は一切なく、白い机と椅子が並ぶだけの実用的な部屋だ。
「失礼する。マクワイルド中尉も座ってくれ」
未だに怪訝さの残る表情をしながら、コリンズが腰を下ろして、反対にアレスが座るのを見届けてから口を開いた。
「時間をとらせて申し訳ないな」
「いえ。セレブレッゼ少将も納得されていたようですからね」
「そう。まずはその理由を聞いてもいいかな」
アレスの言葉にかぶさるように、コリンズは口を出した。
当初の目的よりも先に、疑問に思うのはこの部屋に入る前のやり取りだ。
アレスはセレブレッゼが笑いをこらえているという。
だが、その数秒前までは怒りの台風の渦中にいたのはコリンズ自身であった。
何があったのかと、その理由を問いただしたくなるのは当然のことだろう。
それにアレスは苦笑を浮かべた。
「本来であれば憲兵隊の――失礼ですが、一少佐クラスが課長に直接会いに行くことは考えられません。私を捕まえるとか特別な密命があるなら別ですけど、たかだか一中尉と話がしたいだけなら、私の上司であるウォーカー補佐に連絡をとればいいだけです。でも、コリンズ少佐は課長に直接会いに行かれた」
「それで、不作法だと怒鳴られたわけだが」
「ええ。でも、コリンズ少佐は考えられたわけです。一中尉を呼び出したとなった場合には、下手をすれば――といいますか、間違いなく噂好きの事務官が多い装備企画課で噂になります。そして、それは避けたいとコリンズ少佐は考えられたのではないですか」
「……そうだ」
「それを防ぐにはセレブレッゼ少将に直接話を持ち掛ける。当然、怒られはするでしょうが、私を内密に呼び出すことは可能ですし、噂になることも避けられる」
コリンズの考えを予想するかのような問いかけに、もはやコリンズは言葉もない。
ただ苦い顔をしながら、首を縦に振った。
「セレブレッゼ少将はそれを全てご存知で、お怒りになったのだと思います」
「なら、あそこまで怒らなくてもいいだろう」
「理由の半分はわざと。ああすれば、秘密裏に私を呼べると思ったのだと思います。実際にウォーカー補佐は私に様子を見に行くように言いましたからね」
「なるほど、それで、もう半分は?」
「それは単純に不作法だったからですよ。どんな理由があっても、一少佐が課長に直接会いに行って要件を告げれば、馬鹿野郎といわれて当然でしょう」
片目をつぶって楽しげな様子に、コリンズは顔を引きつらせ、大きなため息を吐いた。
+ + +
調査結果に、優秀だったからと一文だけいれれば終わるような気がしたが、コリンズはハンカチで額の汗を拭い、気を落ち着けた。
仕事はまだ終わっていないのだ。
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