ある憲兵隊員の憂鬱
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事情がある。
まず後方勤務本部がアレスの昇進を提案したのは、表には出なくても、莫大な予算がかかる装甲車の整備負担をアーク社に持たせることになったのはアレス・マクワイルドの功績である。それを認めないのであれば、後方の仕事を認めないのと同じであるということだ。
そうセレブレッゼが強く主張した。
それだけでもコリンズは逃げたくなったが、それに対して賛同したのは星間警備隊だ。
もとよりカプチェランカの功績により、彼の所属していたカプチェランカを管轄する星間警備隊では二階級の特別昇進を希望してきていた。最も民間には関係のない――つまり支持率が上がらないという理由によって、それ自体は却下されたわけであるが、セレブレッゼがあげた声を受けて、再び盛り返してきた。つまり、二階級昇進させるように要望した星間警備隊の判断は間違ってはいなかったと。
そこに陸上戦隊の声も入っている。
現在の戦争は基本的には艦隊戦が主体であり、陸上戦の数は少ない。
その中で数少ない陸上戦での勝利――カプチェランカといえば、近年で陸上戦隊が経験した大きな戦いということで話題になることは多かった。そして、カプチェランカの残存兵の多くがアレス・マクワイルドに助けられている。
それは遠く離れたハイネセンでも同様であった。
つまり、下手にアレス・マクワイルドを呼び出し、ましてやそれが無罪で呼び出したとなれば、憲兵隊は、後方勤務本部はもとより、艦隊司令部、星間警備隊、陸上戦隊と様々な部署からどえらいお叱りと恨みを受けるわけだ。まったく知りたくはない裏事情であるが、もし呼び出せば当事者であるコリンズがどうなるかは想像しなくてもわかるだろう。そもそも、コリンズ自身がずっと憲兵隊にいるわけではない。
次の異動先がセレブレッゼの下でないとは誰にも言えないわけだ。
そうなったら、物理的ではなく精神的に殺されかねない。
真剣に上には、マクワイルド中尉は何事もありませんでしたと言って幕を引こうかと考えた。
だが、そこは憲兵隊である。
同盟軍の不正をただす憲兵隊員が、自らの不正など許せるはずもなく、こうして重い足をひきずって、後方勤務本部の前まで来たのであるが。
後方勤務ビルを見上げて、コリンズはこの日何度目かとなる大きくため息を吐いた。
逃げたほうがよかったのではないかという悪魔のささやきを押しとめながら。
+ + +
「ふざけるなっ!」
激しく物がぶつかる音がした。
ざわめきの喧騒が一瞬で止まり、全員が声の方向に目をやった。
音源は室内ではない。
装備企画課を出てしばらく歩いた――そう、課長室の方向からだった。
廊下を挟んでも聞こえるその声は、激しい怒声。
課長室から聞こえる声の主は間違いなく、セレブレッ
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