巻ノ百四十二 幸村の首その三
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「最早な、だが時を待つことじゃ」
「そしてですか」
「その時が来ればですか」
「また戦う」
「ではですな」
「城に戻るが明日はじゃ」
その時はというのだ。
「よいな」
「はい、それぞれですな」
「城が陥ちるその時になれば」
「まさにその時に」
「落ち延びよ、そして時を待て」
そうしろと言うのだった。
「わしもそうする、その時が来れば」
「再びですな」
「槍を取ることですな」
「そうすべきですな」
「うむ、そうせよ」
こう言ってだ、長曾我部は己の軍勢を退かさせた。そうして次に毛利勝永もであった。
戦の状況を見て兵を下がらせ明石もであった。
兵を退かさせていった、それを見て十勇士達は幸村に言った。
「殿、お味方の軍勢がです」
「次から次に退いております」
「結局右大臣様は出陣されませんでしたし」
「最早戦は」
「今日は」
「今日大御所殿を討たねばな」
それがわかっているからこそだ、幸村は己に話す十勇士達に答えた。
「この戦は負けじゃが」
「しかしです」
「もうこの状況では」
「この戦は」
「我等も殿と同じ考えですが」
「最早」
「無念なこと」
幸村もわかっていた、もう戦の趨勢は決してしまった。そして今自分達はどうしても家康の首を取れぬことも。
それでだ、彼は十勇士達に無念の顔のまま答えたのだった。
「ではじゃ」
「はい、ここはですな」
「退くのですな」
「城まで」
「そうしますな」
「我等が大坂方全体の後詰となってな」
そのうえでというのだった。
「退くぞ」
「わかり申した」
「では我等がその殿軍を務めまする」
「後詰のさらに後詰を」
「そうします」
「拙者もじゃ、こうした時にもじゃ」
まさにと言う幸村だった。
「七耀の術は役に立つ」
「そうなりますか」
「では、ですな」
「殿の六つの分身は」
「まさにここで」
「存分に働いてもらう、そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「最後の最後まで戦ってもらう」
「そうしますか」
「そしてそのうえで」
「ここはですな」
「何とかですな」
「軍勢を逃がしますな」
「そうする、六人の分身全てをじゃ」
まさにと言うのだった。
「失っても構わぬ、分身はまた出せる」
「力を蓄えれば」
「その時はですね」
「また出せる」
「だからこそ」
「こうした時にもだ」
まさにというのだった。
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