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真田十勇士
巻ノ百四十二 幸村の首その二

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「どうしてもな」
「ご幼少の頃から共におられて」
「その為にですな」
「あの方には申し上げられぬ」
「そうなのですな」
「うむ、無念じゃ」
 今となってはそれが余計にだった。
「わかっておってもな、こうした時に治部殿か刑部殿がおられれば」
「茶々様をお止め出来ましたな」
「それも常に」
「あの方が何を言われても」
「いざとなれば」
「すぐにお止めしていましたな」
「それが出来た、しかし言ってもはじまらぬ」
 今この時に及んでというのだ。
「どうしてもな」
「ですな、では」
「それでは」
「この場は」
「このままですな」
「わしはここで采配を執り続ける」
 このままというのだ。
「そしてだ」
「そのうえで、ですな」
「右大臣様が何とか女御衆の方々を振り切られる」
「そのことをですな」
「期待しますな」
「それしかないわ」
 どうしてもというのだ、それでだった。
 大野は秀頼の出陣を待った、それしか出来ないとわかっているからだった。だが戦局はいよいよであった。
 大坂方の攻めの限界が来た、それはまずはだった。
 長曾我部の軍勢で起こった、これまで攻め続けていた長曾我部勢もその勢いが次第に衰えていき遂にだった。
 動きが止まった、長曾我部はそれを見て言った。
「最早じゃ」
「攻めきれませぬか」
「あと一歩でしたが」
「それはもうですか」
「出来ぬ」
 土佐以来の己の家臣達に歯噛みして述べた。
「最早な」
「ではどうされますか」
「ここは」
「致し方ない」
 こう家臣達に答えたのだった。
「ここは退くぞ」
「そうされますか」
「もうこれ以上攻められぬなら」
「それならば」
「それしか出来ませぬな」
「うむ、このまま退きじゃ」
 そしてというのだった。
「大坂の城まで入るぞ」
「殿、しかしです」
「ここで攻めるのを止めますと」
「最早です」
「我等は」
「負けじゃ、明日は最早攻めるどころではない」 
 長曾我部は家臣達に達観した声で答えた。
「幕府の軍勢が城を完全に囲んでじゃ」
「そうしてです」
「城攻めにかかります」
「そうなってしまってはです」
「もう本丸しかないあの城は」
「そうじゃ、陥ちるわ」
 それは自明の理であった、誰から見ても。
「そうなってしまうわ」
「左様です」
「そうなってしまいまする」
「そうなればです」
「お家の再興も」
「出来ぬ」
 それこそとだ、長曾我部は家臣達に答えた。
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