03.過去語
ー水城涙ー
過去語ー水城涙ー 序章
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今日は珍しく雪が降っていた。
白い、ふわふわとした丸いものが、空から静かに落ちて、石畳の上に積もる。
街の歩道に敷き詰められた石畳は、既に白い絨毯に覆われていた。歩道と車道の間に生えた植物の上も、雪で飾りつけされていた。
小さな学生達が楽しそうに雪で遊んでいる。会社員達が時計を見ながら、傘を差して通勤している。恋人達が仲良く手を繋いで、お互いに躰をくっ付けて歩いている。皆マフラーや手袋、外套を着ていて、防寒対策バッチリとでも言いたいのかと言う程の恰好をしていた。
それを横目に見ながら、彼はひっそりと幼児達と身を寄せ合い、暖を取っていた。
半年前、彼は、まだ小さな男の子や女の子を抱きかかえ、街の中を只々彷徨っていた。
ぼろぼろの白い布きれを纏った少年と、数人の幼児達が明るい街の中を彷徨っている様子を見て、街の人々は困惑した。当たり前だろう。まだ十五にも満たなそうな少年が、ぼろぼろの布を纏って、更に数人の幼児達を抱えて街を奔っているのだから。
少年はまだ太陽に照らされる街を走り、やがてひっそりとした袋小路に隠れた。
冷たくなった躰をぎゅっと抱きしめて温め、必死に命を守ろうとしていた。
まだ夏であるにも関わらず、此処は冬の様に寒く感じられる。雨の様に冷たくて、雪の様に冷たくて、氷の様に冷たくて。
彼等は衰弱しきった躰を寄せ合って、其処で暮らして居た。
汚れた髪に、青白くなった顔。虚ろに開かれた瞳に光は無く、触れば折れてしまいそうな程、四肢はやせ細っている。着ている服もぼろぼろの布きれで、この寒さに耐えられるものでは無かった。
それでも、誰も「寒い」とは言わない。否、言えなかった。
もう口を動かす気力さえ無い。もう数日も飯を食べていない。
既に、彼等は限界だった。
そこへ、一つの声が近付いてくる。
「今日は雪かぁ……寒いから嫌いなんだよなぁ」一人ぼそぼそと呟いているのは、長外套(コート)を羽織った少女だった。手をポケットに突っ込み、宙を仰ぎながら、ゆっくりと歩いて、彼らの居る袋小路の中に入って行く。
そして、何かを見つけ、それにゆっくりと近づいて行く。その視線の先には、少年と五人の幼児の姿が。
少年は幼児達を庇うようにして、一歩前に出る。
「来るな」冷たく、低い声を出して威嚇をする少年。少女はそれに構わず歩を進め、少年へ近づいて行く。それにつれて少年の顔は歪んでいき、後ろにいる幼児達は彼の服の裾を握りしめる。
そして、少女は少年の前に立ち、少年達の顔を覗き込む。その顔は、恐怖に支配されていた。
幼児達は目をぎゅっと瞑り、少年は更に目付きを鋭くさせて少女を睨み付ける。だが、その勇ましい行動をする少年も、矢張り恐怖に飲み込まれていて、腕が震えていた。
そして、少女は―――
「君達、寒そうだね。ホラ、長外套貸し
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