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真田十勇士
巻ノ百四十一 槍が折れその十
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 秀吉は大手門を出た、しかしここでだった。
 城の女御衆が必死にだ、泣いて止めて言ってきたのだ。
「どうかここはです」
「茶々様のお傍にいて下され」
「今も怯えておられます」
「ですから」
「そう言うがここで余が出陣せぬとじゃ」
 見事な具足と陣羽織に身を包み馬に乗りつつもだ、秀吉は女御衆に包まれてそのうえで困り果てた顔で言っていた。
「戦は勝てぬ」
「そう言われてもです」
「茶々様もそう言っておられます」
「どうか右大臣様にお傍にいて欲しいと」
 あくまで言う女御衆だった。
「ですから」
「ここは思い止まって下さい」
「ご出陣は」
「城におられて下され」
「だが余が出ねばだ」
 秀頼も退けない、自分が出なければ戦がどうなってしまうかは戦のことは殆ど知らない彼にもわかることだからだ。
「この度の戦は」
「勝てまする」
「戦は勝ちまする」
「どうして我等が敗れましょう」
「大義は我等にあるというのに」
 戦を知らぬ秀頼よりも遥かに知らない女御達はそれでも言うのだった。
「それでどうして敗れるのか」
「勝つのなら問題ありませぬ」
「ですからここはどうか」
「ご出陣はお止め下され」
「茶々様のお傍にいて下さい」
 城の女御達は泣いてすがりついて秀頼の出陣を止めていた、秀頼も行きたがったが彼にはその女御達の手を払うことなぞ出来ずにだ。
 必死に言ってどいてもらおうとするだけだった、だが女御達はどくつもりはなく時だけが過ぎていった。
 その状況を見てだ、戦の軍監を務める大野は歯噛みして言った。
「抜かった、ここはな」
「母上達にですな」
「御殿にいてもらうべきでしたな」
 その大野に治房と治胤が応えた。
「そしてそのうえで」
「そこから出てもらわずに」
「茶々様と共に」
「今日は静かにしてもらうべきでしたな」
「そうであった、まさか右大臣様のご出陣までじゃ」
 大坂方にとっては乾坤一擲の戦に勝つ為にどうしても必要なそれにもというのだ。
「茶々様のお願いの通りにな」
「動かれて」
「そうしてですな」
「右大臣様のご出陣を阻むとは」
「思いも寄りませんでした」
「全くじゃ、これではじゃ」
 それこそと言う大野だった。
「右大臣様が出陣されずにじゃ」
「我等はですな」
「この戦極限まで士気が上がらず」
「その為に」
「攻めきれませぬな」
「ここで右大臣様が出陣されれば」
 諸将や兵達の願い通りにだ、また事前の軍議通りにというのだ。
「勝てるやも知れぬというのに」
「兄上、こうなってはです」
 治房が兄に決死の顔で申し出た。
「母上に他の女御衆の方々も」
「御殿にじゃな」
「はい、帰ってもらい」
 そうしてというのだ。
「静かにしてもらいましょう」

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