巻ノ百四十一 槍が折れその八
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「しかしな」
「それでもですな」
「まだ右大臣様のご出陣はありませぬか」
「まだ」
「城の方から法螺貝はないですか」
「鳴らぬ、どうやら」
ここで幸村は言った、己のその考えを。
「茶々様がな」
「左様ですか」
「それではですな」
「最早ここは」
「我等だけで」
「やるしかない」
それならばとだ、幸村も覚悟を決めた。例え秀頼が出陣せず大坂方の兵達の士気が今以上に上がらずともだ。
自分達が攻めるしかない、そう覚悟を決めてだった。
さらに攻めさせた、そうしてだった。
彼は遮二無二といった調子でさらに攻めさせた、だが家康は必死に逃げ服部と十二神将達も彼を守っていた。その為幸村も十勇士達も家康を討てなかった。それでも今は家康にとっては絶体絶命の状況だった。
それでだ、家康は馬を必死に走らせつつ思わず言葉を漏らした、その言葉はどういったものかというと。
「覚悟を決めるか」
「大御所様、それは」
「腹を切るか」
こう言うのだった。
「このまま真田に討たれるよりはな」
「そう言われますか」
「最早逃げきれぬ」
「だからこそ」
「彦左衛門はああ言っていたが」
しかしというのだ。
「このままでは逃げきれぬやも知れぬ、それでは敵に討たれるよりな」
「ご自害され」
「そうしてですか」
「首を取られぬ」
「そうされますか」
「その時は首は埋めよ」
自分のそれはというのだ。
「よいな」
「ですがそれは」
「何とかです」
「思い止まって下され」
「我等がお守りしますので」
「どうか」
周りを護る旗本達は必死に言う、だが家康は観念しようとしていた。それでまた言うのだった。
「だがこの状況では」
「しかしそれは」
「我等が食い止めます」
「ですから思い止まって下さい」
「それだけは」
「生き延びて下され」
「左様です、ここはです」
服部も家康に言ってきた、結界を張って彼を護りつつの言葉だ。
「どうかです」
「お主もそう言うか」
「大久保殿の言われた通りです」
「ここは生き延びることか」
「我等がお護りしますので」
だからこそというのだ。
「ここは最後までです」
「逃げ延びるか」
「馬印が倒されたことは無念なれど」
これは十分な恥であった、家康のそれが倒れたことは幕府の軍勢がそこまで押されていることの証であるからだ。
「しかしです」
「わしはまだ生きておるからか」
「大御所様が生きておられれば」
「幕府は勝ちじゃな」
逆に討ち取られれば負けとなる、そういうことでもあった。
「だからか」
「はい、ここはです」
「何とか逃げ延びてか」
「そしてです」
「敵の攻めが限界に達すればじゃな」
家康は持ち前の戦上手をここで発揮した、これ
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