第1章 春秋戦国時代〜不知而言不智、知而不言不忠〜
プロローグ
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きっと捨てられなかったのかな、と思うと悲しくなる。
「でもまあ、素晴らしい父に出会えたのだから、帳消しにしてやろう」
転生前の俺の親父は碌なもんじゃなかった。酒浸り、ギャンブル、借金。母は親父のいいなりで、俺が親父に暴力を振るわれても、見て見ぬふりをしていた。
だから、幸せな家庭というのにあこがれていたのかもしれない。今世の父は、俺にとって命の恩人を超えて、尊敬すべき目標だ。
いきなり親に捨てられたことで、すっかり人間不信になっていた俺を、父は優しく見守ってくれていた。少しでも父の役に立ちたくて、武芸と勉学に励んだ。前世では、どちらも大嫌いだったのに。
もちろん、チートな身体を持っていて、上達が早かったのも理由だと思う。
そして、気づいたら30年経ち、一昨日父を看取った。
寺と麓の村だけが俺の世界である。父の役に立ちたい一心で、補佐をし続けた。一切の後悔はない。
「にしても、俺は不老なのかな。身体チートのせいなのか、神のいたずらなのか」
父に感謝している理由は、もう一つある。それは、俺の身体が全然成長しないことを気にも留めなかったからだ。
13歳までは普通に育ったのだが、それを境に、全く身長が伸びなくなった。
だから、俺の見た目は少年にしか見えない。
普通なら気味悪がれて、排斥されるだろう。でも、父は違った。今まで通り、俺を育ててくれた。
名も、前世の田中心にあやかって、田忠と名付けてくれた。前世の自分とのつながりも大切だろう、だとさ。
本当に感謝してもしきれない。
あと、真名は義心と名付けてくれた。この世界には、真名という風習があって、うっかり呼ぶと斬られるらしい。なんて恐ろしい風習なんだ。
俺も真名を預けられるような人に出会えるといいな。
「よし、出立するか」
袈裟と三度笠を身に着け、錫杖を手に歩き出す。一度だけ墓を振り返ると、麓の村へと向かった。
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