第72話『表と裏』
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終夜のその声は若干震えているように聴こえた。無理もない。目の前の生物こそが頂点と言っても過言ではないほど、それは強大なオーラを放っているのだから。
「復活しちまったのか…。じゃあ、結月は…?」
「ボクは平気です! 生贄になったのは魔王です!」
「ん、魔王…? そ、そうか。それなら良かった!」
困惑しながらも次々と状況を確認する終夜。やはり、部長とは名ばかりではない判断能力だ。
・・・と、そんなことを考える余裕はない。晴登はひとまず、結月の手首に纏う黒い何かを外そうと試みる。このままでは逃げることもままならない。
「くそっ、どうなってんだよこれ!」
「ハルト、ボクのことは後回しにして。今は魔術は使えないけど、走ることはできるから」
「こんな状態じゃまともに逃げられないよ! 待ってて、今外すから…!」
魔術によって作られたと思われる手錠は実体を持たず、掴むこともできない。しかし晴登はめげずに、小さな突風を起こして力ずくで手錠を壊すことにした。目には目を、魔術には魔術を──
「……よっし、壊れた! 立てるか、結月?」
「うん、ありがとうハルト!」
「あ、うん…!?」
この場においても結月の笑顔が眩しい。こうしてお礼をされると、いつも返し方に困ってしまう。「どういたしまして」の一言すら、小っ恥ずかしくて言えやしない。友達だったら簡単に言えるだろうに・・・
「…いい雰囲気のとこ悪いが、一旦離れるぞ! このままだと山が崩れる!」
その一真の言葉に周りを見渡すと、イグニスの出現に伴う地割れが拡大し、山頂全てを奈落に落とさんとしていたのだ。
全員は急いで山頂から下り始める。その時だった。
「…婆や?」
「…どうやら、儂の出番らしいの」
山頂と山道の境界。全員が山を下ろうとする中、そこで不意に立ち止まった婆やが堂々とした様子で言う。
すると彼女は右手を前に掲げ、一瞬空気を震わせたかと思うと、目の前に巨大な青い光の壁を作り出したのだ。その壁は見事に地割れを食い止め、晴登たちへの被害を抑える。
「この一瞬で壁を…!?」
「儂の持つ力は"魂の力"に由来するものでな。生命を削って強大な力を生み出す、いわば諸刃の剣じゃ」
「あ、じゃあ俺らを呼んだ魂も…?!」
「アレは儂が作り出した擬似的なモノじゃ。使い勝手は良いぞう」
そう言って婆やは快活に笑う。その間も地割れはしっかりと防がれており、晴登らはただただ圧倒されるしかなかった。
「…さて、少し下に降りようかね。そこでイグニスと決着を付けねばなるまい」
その言葉で全員に緊張が走る。これから、世界を揺るがす存在と戦うのだと
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