第72話『表と裏』
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が君だよ、剣堂 一真」
「…っ、何で俺の名前を…!?」
「知っているさ、初めから。君は九年前、魔王軍との戦争の時に裏世界に召喚された抑止力なんだから」
その言葉に晴登は絶句する。なんとカズマ・・・いや一真も、晴登らと同様に召喚された抑止力の一人だったのだ。つまり彼もまた、現実世界の出身なのである。
それを言い当てられた一真は動揺するが、すぐに平静を取り戻した。
青年は話を続ける。
「君は恐らく、自分は魔王軍討伐の為に召喚されたと思っているだろう?」
「違うのか…?」
「あぁ間違いさ。さっき言っただろ? 『君はイグニスに対する抑止力だ』って。そもそも、抑止力は理由が無いと召喚されないからね」
自分らも一真も抑止力。ただ、自分らの使命は"魔王軍討伐"で、一真の使命は"イグニス討伐"。つまり、一真は当時ではなく、九年後の未来の為の抑止力だったということになる。なんと身勝手なシステムだろうか、抑止力というのは。
「…婆や、こりゃ本当か?」
「…否定はできん。お前をこの世界に召喚した時、全く役に立たなかったしな」
「あぁ…そういやそうだったか。軽いトラウマだな、ありゃ」
一真は思い当たる節があるようで、青年の話を信じたようだ。晴登は未だに疑わしいが、表には出さないことにする。
「てことは、お前はイグニスで裏世界をぶっ壊した後、俺に後始末をさせようと考えた訳か?」
「理解が早くて助かるよ。キミにはその力があるんだ。協力してもらうよ?」
「俺にそんな力が・・・」
一真は右手を見つめて、大きく息をついた。一真の返答次第でこの世界の命運が確定する。婆やは否定的だが、魔王の意見が正しいのであれば破壊も一つの手なのかもしれない。何が正しくて何が間違っているのかなんて、結局誰にもわからないのだから。
「──断る」
静寂を切って放たれた言葉はそれだった。その言葉に晴登は驚くことはないし、言ってしまえば青年すらも驚いてはいない。一真は青年を真っ直ぐに見据えて、言葉を続けた。
「お前が言うことも一理あるかもしれねぇ。でも俺はここで育てられて、気づいてんだ。この世界の人たちは優しくて、元気で、何より…幸せそうだなって。そんな人たちを犠牲にするなんて、俺にゃできねぇよ」
一真の脳裏に、この世界に来てからの記憶を思い出しているようだった。これが一真の心からの答えである。青年はその答えにやれやれと首を振った。
さて、魔王の企みはこれで頓挫したはずだ。どう出るか…?
「・・・そう言うと思ってたよ。あーあ、生贄も抑止力も全て取られてしまったか」
「そうじゃ。もう観念しな」
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