第72話『表と裏』
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だけの残念な話だ。それに気づいた結月の哀れみが心に刺さるが、助けることができたので気にしないことにする。
「けど、困るんだよね。その娘が僕には必要なんだ。イグニスを復活させて、この世界を破壊しなきゃいけないんだよ」
「悪いけど、俺も結月が必要なんだ。そんな訳のわからない目的の為に利用されてたまるか!」
「訳のわからない…か。君はこの世界について何を知っている?」
「え・・・」
その質問に晴登は押し黙ってしまう。認識としては、"現実世界と比較的繋がりのある異世界"というものだが、もしかして、この世界には晴登たちが知り得ない裏事情が有るのだろうか。
「この世界は、君らの世界とかなり密接に繋がっている。それはもう、君らの世界を"表"とするならば"裏"とも呼べるくらいに。そんな世界の人々の正体って・・・何だと思う?」
「は…?」
「おかしな質問だよね。ただ僕は、"君らの世界に生まれることができなかった人間"だと思ってるんだ。この裏世界は君らの表世界の下位互換ってね」
その言葉を聞いて、晴登は婆やとカズマを見やる。婆やは肯定とも否定とも取れない苦い顔をしていた。
魔王は両手を広げて、演説でもするかのように語り続ける。
「そんな世界に生まれた人々は、果たして幸せだろうか。僕はかつて表世界にも行ったことがある。だからこそ言えるんだ!──この世界は不幸なのだと」
抑揚を頻繁に変える彼の話し方に、えも言われぬ悪寒が背中を走った。魔王はニヤリと微笑むと、最後にこう呟く。
「だから僕は決めた。この世界を滅ぼすんだ」
晴登は何も言い返せない。もはや、何が正しいのかもわからなくなっていた。もしかすると、間違っているのは自分なのではないか。そんな疑問が頭の中を過ぎる。
「お前は何度言えばわかるんじゃ! その為にどれほどの人が死ぬと思う?」
「未来の為の犠牲さ。裏世界が滅びれば、この先 表世界から外される者はいなくなる。皆が幸せになれるんだ。幹部達だって僕の意見に賛同してくれたよ」
婆やが青年にそう諭すが、青年は耳を貸さない。思うに、この意見の違いが夫婦であった二人を対立させたのではないだろうか。
晴登から見て、魔王の意見は主観的な部分を多く含んでいる。ただ、確信犯の彼にそのことを指摘しても無意味だろう。もう彼は止まらない。
「けど、イグニスの危険性はお前も知っておろう? 奴がこの世界を消したならば、次は彼らの世界を消すじゃろう」
「わかっているさ。僕には考えがある」
そう言って、青年はカズマを指さした。指された本人は予想もしなかったのか、自分で自分を指さしてキョトンとしている。
「イグニスに対する抑止力・・・それ
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