第七十一話 劉備、何進を匿うのことその五
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ふとだ。華陀が言うのだった。
「一つ足りないな」
「一つ?」
「一つっていいますと」
「南蛮象のヘソのゴマだ」
それがないというのである。
「それはあるか?」
「南蛮象?」
「南蛮象っていいますと」
「桃色の身体に猫程の大きさの象だ」
こう話すのである。
「その象のヘソのゴマだが。あるか?」
「ええと、その象は」
「確かそれは」
ここでだ。二人は気付いた。その象とは。
「美衣ちゃんがいつも頭に乗せている?」
「パヤパヤちゃん?」
「むっ、ここにいるんだな」
「はい、います」
「その象でしたら」
「ならその象のヘソのゴマを貰いたい」
まさにそれをだというのだ。
「そうすれば何進殿の猫化は収まる」
「わかりました。それじゃあ」
「美衣ちゃんにお話します」
「頼むぞ。何しろわらわはじゃ」
切実な声で言う何進だった。
「猫が大嫌いなのじゃ」
「嫌いな存在に変える」
「宦官達も意地が悪いですね」
「宦官にはそうした奴が多いのじゃ」
何進は顔を顰めさせて話す。
「陰険で執念深くてじゃ」
「ううん、あまり知り合いになりたくないですね」
「本当に」
「だからわらわは宦官は猫よりも嫌いじゃ」
猫よりもだというのである。
「猫は二番、宦官は一番じゃ」
「じゃあ将軍はその」
「宦官みたいには」
「あれを切り取ることはせん」
それははっきりと言い切ったのだった。
「そもそも最初からないわ」
「ですよね。女の人ですから」
「やっぱり」
「たまにある奴もいるがのう」
何気にこんなことも言ったりする。
「それは例外中の例外じゃ」
「所謂ふたなりですね」
「それですね」
「左様、わらわも見たことはない」
「俺はあるぞ」
華陀がここで言う。
「実際にな」
「何と、見たことがあるのか」
「ああ、ある」
何進にも答える華陀だった。
「中々凄いものだった」
「凄いどころじゃないだろ」
馬超がかなり引きながら述べた。
「あのよ、両方あるんだよな」
「そうだ、男のものも女のものもな」
華陀だけが平然としている。
「両方あるのだ」
「うわ、何か全然信じられないな」
馬超はまた唖然となっている。そしてだ。
華陀はだ。また話すのだった。
「それでだが」
「はい、ふたなりですよね」
「そのお話ですよね」
「いや、猫子丹のことだ」
そちらだというのだ。華陀はあっさりと話を変えていた。
「その南蛮象だが」
「あっ、それですか」
「そのことですか」
孔明と鳳統は二人の言葉に我に返って話す。
「南蛮象でしたら」
「すぐにこちらに呼べますけれど」
「では頼む」
華陀は医者の顔になっている。とはいっても何処かヒーローめいている。
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