暁 〜小説投稿サイト〜
銀河英雄伝説〜生まれ変わりのアレス〜
セランVSライナ 後編
[5/5]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
ンボローのため息に呼応するように、準決勝が終了を告げた。

 + + + 

 戦いには敗者と勝者がある。
 勝者は素直に勝利を喜び、そして、敗者は。
 筐体が相手も、誰もすぐには外には出てこなかった。
 あと少し。
 差は紙一重であって、天秤がわずかでも傾けば勝利も可能であっただろう。

 だが、その紙一重が絶望的な境となって勝者と敗者を分けていた。
 のろのろと最初に動き始めたのは、この艦隊の司令官であるクローラーだ。
 謝罪の言葉を口にして、仲間に声をかけていく。
 その足取りは非常に重い。
 いや、彼だけではない。
 筐体から立ち上がった者たちの中に、笑顔を浮かべているものは皆無であった。

 後悔を浮かべるもの。
 悔しさを滲ませるもの。
 あるいは、いまだ呆然とスクリーンを見るもの。
 浮かぶ表情は様々であるが、その動きは重いものだ。
 わずかであったため悔しさも大きい。
 この敗北をどう捉えるかだけど。

 最後に、ライナ・フェアラートが姿を見せた。
 どこか疲れているようではあるが、そこに感情の色は見えない。
 白い肌のままに動かぬ表情がそこにはあった。
 クローラーの謝罪に対して、頭を下げる。
 おそらくは謝罪の言葉。

 だが、周囲の落ち込みとは全く対照的な姿がそこにあった。
 あのヤン・ウェンリーでさえ、負けた時は若干の苦さを残していたのだが。
「声をかけないのですか、アレス先輩」
 アレスの背後から控えめな声が聞こえた。
 振り返ればヘイゼル色の瞳が、どこか遠慮がちにアレスを覗き込んでいた。

 それを一瞥すれば、アレスは再び視線を戻す。
 仲間たちを慰めるように、静かに声をかける姿があった。
 その声は至極冷静であり、的確なものだ。
 どこが悪かった。

 どうすればよかったか。
 まるでその場で感想戦をしているかのように。
 淡々と、淡々と。
 一切の感情を見せずに、口にしている。
 女性に対する嫉妬か、陰では氷の女王とまで言われているらしい。

 だから。
「やめておく。悔しがっている姿は人には見られたくないだろうから」
「え」
 短音の疑問に、アレスは首を振った。
 いつも以上に冷静に努める様子に。
 そして、拳を握り占める様子に。
 こちらに視線を向けず、ただただ強くあろうとする様子に。
 
 きっと大丈夫。
 間違いなく彼女は強くなるだろう。


[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ