巻ノ百四十一 槍が折れその六
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「ここに来てですな」
「十勇士達も出て来ましたな」
「これは難儀です」
「困ったことですな」
「馬印は動いておる」
家康の居場所を示すそれがだ、見れば確かに動いておった。
「退いておる、これではな」
「ここで何とか攻めねば」
「そうせねばですな」
「大御所殿に追いつけぬ」
「そうなりますな」
「何とかせねばならん、ならば」
幸村は決した、その覚悟はというと。
「拙者の分身達は死ぬ、そうしてでもじゃ」
「攻めて」
「そうして三河武士達を蹴散らし」
「そのうえで、ですな」
「大御所殿を討ち取りますな」
「そうするしかない、拙者の分身は六人おる」
それならばというのだ。
「その分身を全て死なせてでもじゃ」
「この防ぎを突き抜け」
「そうしてですな」
「大御所殿に迫りますな」
「そうするとしよう、分身が全ていなくなろうともじゃ」
それでもというのだ。
「拙者はおる、ならばじゃ」
「戦える」
「殿ご自身がおられれば」
「それで」
「だからじゃ」
この場はというのだ。
「分身達が命賭けで攻める」
「そこで倒され消えようとも」
「そうしてもですな」
「何とか戦い」
「そのうえで」
「攻め切る」
家康を討ち取る、そうすると決めてだった。
幸村は分身達をここぞとばかりに攻めさせた、その渾身の攻めで三河武士の決死の守りを果敢に攻めてだった。
彼等の一点、そこをだった。
攻めて突き破った、これには三河武士達も驚いた。
「何っ、我等の守りをか」
「それを抜けたか!?」
「おのれ、何という攻めじゃ」
「これが真田というのか!?」
「大久保殿、ここはです!」
一人の若武者が大久保に叫んだ。
「我等にお任せを、そして」
「わしはじゃな」
「すぐに大御所殿のお傍に!」
そこに向かって欲しいというのだ。
「そうして下され」
「うむ、こうなってはな」
「真田殿と十勇士が向かいまする!」
天下に知られた豪傑である彼等がというのだ。
「ですから」
「ここはじゃな」
「はい、大久保殿が向かわれて下され」
「大御所殿のお傍には服部殿と伊賀十二神将がおるが」
「あの御仁達では足りぬやも知れませぬ」
「そうじゃな、どうも不思議じゃ」
戦っていてだ、大久保が察したことがあった。それは何かというと。
「真田の攻め、どの場でも激しい」
「それが何か」
「うむ、まるでどの場所にも真田殿がおってな」
そうしてというのだ。
「攻めておる様な」
「そうしたものをですか」
「感じる」
こう言うのだった。
「どうもな」
「それはおかしいことですな」
若武者は大久保の今の言葉に怪訝な顔になった。
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