巻ノ百四十一 槍が折れその三
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「わかった、ではな」
「はい、それでは」
「いざという時はな」
「お逃げ下され」
「そうする、馬をもて」
家康は周りの者達に言った。
「そしてじゃ」
「はい、その時は」
「いざとなれば」
「馬で、ですな」
「わしは逃れる、しかしお主達もじゃ」
家康は真田の軍勢がここまで来た時に自分を逃がす為に踏み止まって戦うであろうその者達に対しても言った。
「三方ヶ原の様にな」
「命を捨てるな」
「そう言われますか」
「この度は」
「わしはあの時の様なものは嫌じゃ」
自分の為に忠義の勇士達が命を落とすことはというのだ。
「だからじゃ、戦えどもじゃ」
「命は捨てるな」
「それは粗末にするな」
「そう言われますか」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「そこは頼むぞ」
「わかり申した」
「大御所様がそう言われるなら」
「ここはです」
「危うくなれば」
「その時は」
「下がるのじゃ」
こう言ってだ、そしてだった。
家康は己の馬を連れて来させてそうしてだった、いざという時の用意をしたうえで。
本陣に今は座して兜を被った、そのうえで采配を執り続けた。
幸村は前を見た、そこにだった。
家康の馬印を見た、そのうえで十勇士達に問うた。
「お主達にも見えるな」
「はい、見えまする」
「大御所殿の馬印が」
「日の丸の扇」
「それが確かに」
「大御所殿はそこにおられる」
そのすぐ近くにというのだ。
「だからじゃ」
「あそこにですな」
「辿り着きそうして」
「そのうえで、ですな」
「あそこにいる大御所殿を」
「何とか」
「討つぞ」
まさにと言うのだった。
「そうすれば我等の勝ち、今我等は攻めておる」
「毛利殿も長曾我部殿も」
「明石殿もそうされていますな」
「ではこのまま攻めましょうぞ」
「大坂方の軍勢全体で」
「そうして攻めてじゃ」
そのうえでというのだ。
「よいな」
「勝ちましょう」
「あと一歩で大御所殿です」
「あの馬印の下に行けますから」
「そうじゃ、ここで右大臣様が出陣されれば」
その時こそとだ、幸村は言った。
「軍勢全体の士気が上がる」
「これ以上はないまでに」
「そうなりますな」
「そしてその勢いで」
「あと一押しが出来て」
「勝てる」
大坂方がというのだ。
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