無題
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夜中にひとりで便所に行くのは
大変に恐かった。
でも寝小便をして
伯父や従兄達に
叱られたくはなかった。
夜泣きする妹を抱いて
眠い目を擦りながら
何度も外に出た。
母親はどうして
戦地に行くのを
断らなかったのだろう。
いつもいつも考えた。
まだ赤ちゃんの、みいを置いて。
「ご立派なお母様ですこと。」
何かにつけて伯母が言う。
…まるで
僕の母さんが悪い人みたいに。
ある夜、
父さんが来て
珍しく皆で
夕飯を食べている時に
サイレンが鳴って
伯父さんが電気を消した。
山の手の防空壕に避難する時に
どかんどかんと音が聞こえて。
真っ暗な防空壕の中で父さんが
「日本は負けるかも知れない。」
って言ったら
伯父さんが怒りだして
ケンカになった。
みいが大泣きして
私はみいの口を押さえるのに
必死だった。
私は夜は、いつもいつも
母親の事を考えていた。
満月の夜も
三日月の夜も
月の無い夜も。
どうして母さんは
僕たちの傍にいないんだろう。
「…少し疲れました。笑」
お茶を一口すすり
首を左右に振ると
ポキポキと音がした。
子供達が少し笑う。
「あら、すみません、では、
今日はこの辺までに致します。」
身重の若い女性教諭が
子供達を促す。
「お茶を飲んでって下さい、
年寄りの独り暮しで
何のお構いも出来ませんが。」
子供達はお茶は飲んだが
煎餅には誰も手を付けなかった。
「ありがとうございましたー。」
ノートを小脇に
少女らは軒先から
挨拶をして立ち去った。
…煎餅は気に入らんか。
なら洋菓子を買ってこようか。
子供達が帰った後、
次回に話す事を
纏めておかねばと考えた。
感情的になりそうな気がした。
戦時中は幼かった私には
戦後の混乱期の方が記憶に有る。
食べ物が無くて苦労した事や
全ての価値観が逆さまに
なってしまった事、、、、
父親を戦争で亡くした友達や
その母親から
あなたには
お父さんが居ていいね
って、よく言われたが
それは逆に
でもお前にはお母さんが
居るじゃないかと、
思ったが、…言わなかった。
子供の目からしても
一家の働き手が
居ない
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