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「あなたの父は、そして母は元気ですか。」
無題
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妹と私を
力一杯抱き締めた。


「母さん、早く帰って来てね?」


「…お利口さんにして
父さんの言う事を
よく聞きなさいね?
みいちゃんの事、
お願いしますね、
お兄ちゃん。」





そう言って母親は
汽車に乗り込んだ。



見送りの人達に
頭を何度も何度も下げて、、、



父に抱かれた妹と
父のズボンにつかまる私に
手を振ってくれた。








「それが、、、
私が母親を見た最後です。」



子供達は
私が淹れたお茶も飲まずに
熱心に聞き入って
くれてる様だが。



「出征」と云う言葉を説明した。
召集令状と言ってね、、
赤い紙が来て戦争に行くんだよ。
民間人が兵隊さんになるには
徴兵検査が有ってね、
甲種合格、乙種合格とか、
甲乙丙丁戉って別れてね、
うん、私の母の様に
女の人も戦争に行ったよ、
従軍看護婦って云ってね…、、、







この子達に
私の話は難しいだろうか





小學校に入り、
私は母親に覚えたての字で
一生懸命手紙を書いたが
母親から返事が来るのは
稀だった。




ある日、やっと
待ちわびた返事が来たかと
思えば、
その手紙は殆どが墨で
黒く塗り潰されていた。


私には意味が解らなかったが
多分、夫や私、妹を
余りに案ずる内容は
家族、つまり国民の戦意を
喪失させるとして
検閲が入ったのかも知れない。




父親がその手紙をくしゃっと
丸めて、天井を見上げた姿は
今でも覚えている。






「けんえつって何ですか?」

「軍隊ってのはね、
色々と機密事項、あ、
秘密が有るからね、
検閲って言って秘密が
漏れない様に
お手紙とか調べるんだよ。」


「えーやだー
自分の手紙を関係無い人に
見られるなんてー。」





…そうだよ。
なんか、おかしいと
今なら子供でも思うだろ。




私は預けられた父親の姉の家で
随分と肩身の狭い思いをした。



父親と伯母は随分と歳が
離れていた為に
姉弟と云う感情が
希薄だったのかも知れない。

4人の従兄弟はみな歳上で
食事はあからさまに差があった。



…伯母は伯父さんに
遠慮していたのかも知れない。


夜、時々、父親が食事に寄るのが
待ち遠しかった。



まだ赤ん坊の妹が泣いても
伯母は知らんぷりで
必要最小限の事しか
してくれなかった。

私は随分と困ったが
歳上の従姉妹が優しい人で
助かった。






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