【紫陽花にいざなわれて】
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「フフ、漸く笑ってくれましたね」
「え?」
「いえ、何でも。……では、支度をしてきますので待っていて下さい」
「あ…わ、わたしもお手伝いして、いいです…か?」
立ち上がりかけて従兄は一瞬目を見開いたが、すぐに優しげな目元になって微笑を向ける。
「それでは、お願いします」
ネジは手際良くたすき掛けを済ませるが、ヒナタは自分よりサイズの大きい着物に着替えた為かもたもたしてしまい、そこをネジがさり気なく手助けしてくれる。
── 一緒に作った和食メインの朝食を食卓に並べ、互いに向き合って座り、頂きますと手を合わせる。
……黙々と上品に食す従兄を、ヒナタはちらちらとつい見てしまう。
先程一緒に並んで朝食を作った時、精悍な顔つきは元よりすらりとした背の高さと長く豊かで滑らかな髪、しなやかさの増した体つき、本当に自分の知っているネジ兄さんより三つくらい歳上なんだとヒナタは実感した。
でもいつの間に、三年も経ってしまったんだろう……それでいて自分は変わってないのに──
「──?どうしました、ヒナタ様。先程の朝食の支度も手が止まりがちでしたが……、具合でも悪いのでは」
「い、いえっ、何でもないです。大丈夫です…!」
従兄が食す手を止め、心配そうに見つめてきた為ヒナタは恥ずかしさを誤魔化すようにご飯を思い切り掻っ込んでしまう。
「ひ、ヒナタ様、そんなに急いで食べるのは──」
「っ! ごほごほっ」
口を押さえてむせたヒナタに、ネジは近寄って背中を優しくさする。
「大丈夫ですか、ヒナタ様」
「はっ、ご、ごめんなさ…けほけほっ」
少しして咳が落ち着いたので、差し出された水を飲んで一息つくヒナタ。
「す、すみません、急に咳き込んでしまって……」
「いえ、大した事はなくて良かったです」
ヒナタは先程従兄にさすられた背中が、熱を持ってこそばゆい感じがして恥ずかしかったが、もう少しさすってもらいたかったと思いながら鼓動が早まる。
「ネジ兄さん、おはようございます…!」
不意に声がした。玄関の方からのようだ。……ヒナタはもう一人の自分の声のような気がして落ち着かず、従兄は口元に人差し指を当てて静かにするよう促した。
(あなた方を逢わせるのは良くないかもしれないので、隠れていて下さい)
ヒナタは言われた通り奥の部屋へ隠れ、ネジは玄関先へ向かう。
……しかしやはりヒナタは気になって、白眼を発動しようとしてみたが何故か出来ず、仕方なしに出来るだけ気配を消して物陰からもう一人の自分かもしれない存在を盗み見ようと試みる。
「煮物、お裾分けに持って来ました。朝食は済ませたと思いますけど、お昼にで
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