暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
Alicization
〜終わりと始まりの前奏〜
曇天
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「あ、アメリカ〜っ!?」

カフェテリアの丸テーブルを挟んで飛んできた親友の魂の叫びに、手の中にあった野菜ジュースの紙パックからズビュルという怪音が鳴った。

二〇二六年二月末。

まだ春も遠い晩冬の昼だが、麗らかとはお世辞にも言い難いほど窓から見える空はぐずっていた。確か今朝方、出かける前に見た天気予報では午後から雨と言っていたような気がするから、遠からず降りだすだろう。

傘持ってきててよかった、と呑気に思っていた紺野木綿季は、おとがいに巻き付いた五指によって強引に真正面を向けさせられた。

そして真正面には美少女……と言いたいが、眉間のシワで思わずホールドアップしそうになるほど凄みをきかせる親友。

「アメリカってどういうこと?蓮君が?どうして!?足は大丈夫なの??」

「ちょ、ちょっと落ち着いて明日奈」

SAO来の親友――――結城明日奈は憤懣やるかたないように肩を荒げていたが、やがて大きく息を吐くとストン、と椅子に腰を下ろし直した。

その様子にほっと安堵しながら木綿季は少しだけ口を尖らせた。

「もー、共同のここじゃあんまり目立ちたくないんだよねー。だってボク達くらいだよ、本名がそのまんまキャラネームだなんてさ」

「う……、ごめん……」

辺りをわざとらしく見回して見せると、明日奈は身体を縮こませる。年齢的には3つも離れているのに、こういう時にはその壁が消え去るような気がする。そこら辺がキリトをオトせた所以だったりするのだろうか。

しかしせっかくながら、木綿季自身この言葉はほとんど意味を為していないと気付いている。

この特殊な《学校》に通う生徒は全て、中学、高校時代に事件に巻き込まれた旧SAOプレイヤー……俗に言う《SAO生還者(サバイバー)》だ。

木綿季や明日奈を始めとした幾名かは、SAOを経た今でも変わらずに仮想世界にダイブしているが、それでも中にはPTSDにも繋がる重篤な心の傷を負った人もいたらしい。それもそのはず、十代半ばは一番心が不安定な時期と言っても過言ではない。自然災害ではない、一人の天才による圧倒的な悪意は年端も行かない子供達の精神をすり潰すには充分だったのだろう。

そういう事情もあり、思い出させないという理由から基本的にアインクラッドでの名前(プレイヤーネーム)を出すのは忌避されているのだが、何せ顔がSAO時代とほとんど同じだ。木綿季や明日奈に至っては入学直後からもう知られ渡っている。

というか、全てなかったことにするのは土台無理な話なのだ。あの世界での体験は夢などではなく、紛れもなく現実。そこに確かにあった正の思い出も、負の経験も、その記憶にはそれぞれの方法で折り合いをつけていくしかないのだ。

「で、でもどういうこと?蓮君がアメリカ行くって」
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