第四話「迷い」
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熊牙神社にて
「……」
あれ以来、雷馬君はずっとあの調子です。何があったかは薄々気づいていました。でも、仕方がなかったと言っても、やっぱり彼の心は救われません。
私にはどうしていいのかわからない。いくら傷ついた体を回復してあげても、心の傷までは治すこともできませんし……
そう思い、朱鳥は境内を掃き清めつつ本殿の縁側を懸命に拭き掃除している雷馬を見た。奉仕に集中しているのではなくて何かを忘れるために気を紛らわすためにしているように思えた。
「桑凪さん。掃除終わったよ?」
青い袴を穿いた神職の装束すがたで、雷馬が歩み寄ってきた。
「あ、お疲れです。じゃあ……次は」
と、朱鳥は次にやってもらう作業を指示するが。
「あの、桑凪さん?」
「え、なに?」
「……よかったの? この装束俺が着ちゃって」
「ああ、気にしないでください。お父さんの装束が一番大きいサイズですし」
「そ、そうかい?」
では、きっと彼女の父親は俺と同じ体系だったのかな? それで、親近感を感じてしまったとか? いやいや、ないない……
そうやって、しばらく俺はご奉仕に励んで汗を流した。しかし、結構神職の仕事も体力を使う仕事だ……
「ああ……結構キツイなこれ?」
「その作業が終わったら一旦休憩しましょう? 私も疲れちゃいましたし」
「うん、ごめん……へっぴり腰で」
図体ばかりデカいのに、こんなところでへこたれちゃカッコ悪い。いつもなら、こんぐらいの力仕事は出来たっていうのに、やっぱりあの時の事を引きずっているせいだ……
「……」
そう思うと、俺は自然と動かす手が止まってしまい、俯き続けてしまう。
「九豪君……」
そんな、後姿を朱鳥は見ていた。自分にできることがあれば力になりたいが、それでもどうすればいいのやら……
その後、しばしの休憩ということで社務所の縁側で互いに腰を下ろしてお茶を飲んでいた。
「う〜ん! このどら焼き美味しいですよ? 九豪君!!」
「……」
頬張りながらほっぺをリンゴ色にして美味さと噛み締めている朱鳥であるも、その隣に座る雷馬は、ずっとどら焼きをもっとまま黙っていた。
「九豪君、どうしたんですか? 食欲、ないの?」
「いや……うん、大丈夫だよ」
「……」朱鳥
「……」雷馬
気まずい沈黙が続いた。互いにどんな話題を口にすればいいのやら悩んでいる。朱鳥にしても、取り返しのつかないことをしたと気に病む雷馬にどう言葉をかければいいのか……
しかし、先に口を開けたのは雷馬の方だった。
「……桑凪さん?」
「……?」
「少し、いいかな? こういうお茶の席でとても悪いけど……」
「……どうしたの?」
深刻に、雷馬は重そうに口を開けて言う。
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