アインクラッド 後編
All for one, one for――
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――これは後の記録である。
SAOに囚われた人物に「印象に残っている出来事は?」と尋ねたところ、多くの人物が二つの事柄を挙げた。すなわち、このゲームにおける“最初”と“最後”。しかしこのゲームの攻略の最前線に立ち続けてきた者たちの中には、それらとは違う、第三の事件を挙げるものも多かった。
彼らは言う。《笑う棺桶》討伐戦こそ、この世の地獄だった――と。
「ラフィン・コフィンのアジトが発見された」――突然告げられた重大情報に、その場に集められた攻略組プレイヤーたちは大きく波打った。
「次のフィールドボス攻略に関する会議」だと聞かされ召集された、寝耳に熱湯を撒かれた状態の群衆に向けてアスナが告げた要項は大きく五つだ。
アジトの発見。
今から六時間後の午前二時、ここにいるメンバーで討伐戦を行う。
メンバーを本隊と偵察部隊に分け、少数の偵察部隊で目的地までのモンスターを討伐しつつ本隊を誘導、本隊がアジトを襲撃し、電撃戦で勝負をつける。
参加拒否は可能だが、その場合情報秘匿のため作戦終了まで攻略組の監視下に置かれる。
「――以上。各員の積極的参加と奮戦に期待します」
事務的な口調で一方的に言い切ると、議場は混沌の渦に飲み込まれた。絶対に嫌だと喚く者、友人と顔を見合わせる者、一人俯き思考に耽る者。十人十色の反応をする彼らの頭上を、同じく判別できない幾十の声が重なって飛び交う。どれもみな、正常な反応だとわたしは思った。
「……エミ、ちょっといい?」
「あ……アスナ」
力が抜けて椅子から動くことのできないわたしに声を掛けてきたのは、つい先ほどまで壇上にいたアスナだった。その表情は血盟騎士団副団長としての凛としたものではなく、アスナという一人の女の子の柔らかい微笑だった。しかしその頬が僅かに引きつっているのは、決してついさっきまで壇上にいたからという理由だけではないだろう。
「ごめんね、今日は、突然こんなこと言って」
「ううん。仕方ないよ、こんなこと事前に教えられないもんね」
「……分かってくれて嬉しいわ」
ほっとしたように胸を押さえるアスナ。きっと彼女にも、彼女なりの苦労が絶えないのだろう。
「……エミは、どうする?」
その質問の目的語が「今回の作戦」であることは、聞き返さずとも明らかだった。ただし回答も同じかと言われればそれは全く別の話で、わたしはどう答えるべきか、数度瞬き、膝下に落とした視線を右往、左往、もう一度右往させ、
「アスナは、参加するの?」
と、回答を保留した。頭を引いて右へやった視線をそのまま上に持ち上げると、前をじっと見つめるアスナの横顔が映った。その唇が、ゆっくりと上下する。
「ええ。……わたしには、指揮官とし
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