アインクラッド 後編
All for one, one for――
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ゆっくりと近づく足音を頭の隅に捉えながら。
暗闇の中を、アルゴは駆けていた。空気抵抗を受ける外套の裾がばさばさと波を打ち、肺が仮想の酸素を欲して息を荒げる。街灯も無い道は僅かばかりの明かりもなく、少しでも気を抜けば整備が行き届いているとは言いがたい道の起伏に足を取られ転倒してしまうだろう。しかし、アルゴは走り続ける。
エミのHPバーが緑色に点滅を始めたのは、アルゴたちが最終のゴーサインを出した本隊を見送って少し経った時だった。この近辺に麻痺毒を使うMobは存在しない。それが意味することは、エミがプレイヤーに――嗤う棺桶に襲われたということ。
最早本隊への伝達は間に合わない。それどころか、そろそろ作戦は開始されているであろう頃合だ。にも関わらず、本隊の到着と入れ替わりで離脱する手はずのエミが、何故。疑問は尽きなかったが、それを確認する手段は現場へ向かうしかない。そして即応が可能なのはその場に居たアルゴと、同じく偵察部隊のプレイヤー二人だけだったが、その二人は現場へ向かうことに対して明らかに後ろ向きの態度であった。しかし、それはせっかく死地から生きて帰った者にもう一度命を投げ出せと言うことだ、彼らの気持ちは至極全うと言うべきものだろう。故にアルゴは一人でエミのいた偵察地点まで戻り――そして、発見したのだ。抜き身で地面に置かれたエミの片手剣と、それを重石にしていた、「マサキを連れて来い」と書かれた一枚のメモ書きを。アルゴはすぐに転移結晶で街へ飛ぶと、連絡のつく知り合いにマサキの目撃情報を募集し、唯一の心当たりに走ったのだった。
まばらにしか存在しない民家を幾つも通り過ぎ、街区を抜け、隣接する針葉樹林に入る。それでもなお走り続けて少しすると、並んでいた針葉樹が視界から消え、短い草に覆われた小さな草原に出た。その中央部分は僅かに隆起して丘のようになっており、その頂上に天から吊るされた糸のような背の高いカラマツが立っている。そして、そのカラマツの根元に、アルゴは膝立ちになった人――マサキのシルエットを見た。
アルゴは最後の力を振り絞りその人影に駆け寄る。マサキはそれを察知したのか、音もなく立ち上がるが、振り返る気配はない。アルゴはマサキがどこかへ転移するのだと直感し、咄嗟に声を張り上げた。
「待ってくレ! 違うんだ、エーちゃん、エーちゃ、んがっ!?」
エーちゃん、にマサキがピクリと反応したのと、アルゴがバランスを崩し転倒したのはほぼ同時だった。猛スピードで転んだアルゴは地面をバウンドしながら一回転、二回転してようやく止まり、すぐ傍にあったマサキの足首を両手で掴んで強く咳き込む。
「……よく居場所が分かったな、アルゴ」
「何があっても、此処には来ると思っていタ……ここは、トー坊の墓だかラ……」
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