アインクラッド 後編
All for one, one for――
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々、この段階で敵方に何か動きがあった場合にはそのようにする手はずとなっている。二手に分かれた本隊のもう片方には情報が伝わらないが、全体が知らないよりはマシだからだ。
しかし、Pohであるというただ一点が、わたしの思考をぐらぐらと根底から揺るがした。嗤う棺桶はPoh一人の圧倒的なカリスマと力で成り立っているギルドだ。故に彼の拘束もしくは殺害、というのが主目標の一つであり、討伐部隊としては一番逃したくない目標でもある。それに、もしここで彼を逃がしてしまえば、またラフコフと同じようなレッドギルドを作らない保証も無い。しかし。しかし、せめて移動先だけでも突き止められれば――。
逃がすわけにいかないという使命感に、本隊が来るまでもう時間が無いという焦り、更にはここまでの偵察が順調だったことによる慢心と油断。それら全てはわたしを衝き動かす衝動へと変貌し、遂にわたしは屈みながら移動を開始した。
Pohは洞窟を出ると、ゆったりとした歩調で森に入った。見通しが悪くなったため、わたしは聴覚と《索敵》スキルに全神経を集中させて後を追う。そして、木陰から木陰へ、足音に注意しつつ移動しようとした、その時だ――。
ガサ、と、丁度茂みになっていた部分を踏み抜いたわたしの右足に、何か異物に触った感触があった。あれ? と疑問に思う間すらなくわたしの視界はぐるんと上下に反転し、右足を空から引っ張られる。
「な……!」
罠に掛けられた――そう気が付いたのは、自分が逆さ吊りになったことに気が付いたのと同時だった。
脱出しなければ。わたしは腰から剣を引き抜き、高い枝から足首を吊るしているテグスのような糸の切断を試みる。
しかし、それは叶わなかった。罠に嵌った時点で、勝負は付いていたのだ。
腹筋に力を込め、上体を持ち上げて糸を切ろうとしたわたしの腿に、一本のナイフが突き刺さった。持ち手の先端部分に髑髏の装飾が施された、武器としての性能は殆どないであろう銀色のナイフ。実際にわたしのHPバーの減少は、一目では減ったと分からない程度のもので、罠から抜け出す上で大した障害ではない。――そのナイフに、毒が塗られていなければの話だが。
「…………っ!!」
わたしが声を出せなかったのは、半分が驚きによるもの。そしてもう半分が、瞬時に効果を現した麻痺毒により声を出すことすらままならなかったからだ。腹筋の要領で持ち上げかけられていたわたしの上体はだらりと下がり、木の根元へ向いたわたしの視界の中で、感覚の消えた右手から剣が滑り落ちて地面に突き刺さる。
「ま……き、くん……っ……」
身体中を這いずり回る恐怖と痺れの中、わたしは数十センチ先の剣に――正確には、剣を通して見たワイシャツとスラックス姿の刀使いに向かって必死に手を伸ばす。
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