アインクラッド 後編
All for one, one for――
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とスキルで周囲を索敵し、わたしたちと同じく本隊へ報告に向かっていた他のメンバーからの情報を教えてくれた。
曰く、どの出入り口にも見張りの存在は確認できない。人の出入りも皆無で、気配すら感じられない、とのことだった、
「寝てる……んでしょうか……?」
「そうだったらいいんだけどナ……」
わたしは微かな希望を抱いた。もし彼らが床についているのなら、当然外に出てくることはないだろう。それに加え、眠っている相手を急襲できるというのは非常に大きなアドバンテージになる。そうなればおのずと討伐部隊の被害は減るだろうし、場合によっては無血投降も可能になるかもしれない――
わたしはこの時、この思考の孕む危うさに気付かなかった。自分が死と隣り合わせの状況に瀕しているにも関わらず、根拠の無い憶測で赤の他人を心配する。根拠無き憶測は楽観を呼び、楽観は注意力を著しく低下させる。その負の歯車が運ぶ結果を、わたしは予想だにしていなかったのである。
「それじゃ、もう一頑張り、頼んだヨ」
わたしの肩をポンと叩き、アルゴさんが駆けていった。都合二度目の定期連絡。本隊の移動が予定通りなら、今頃ここから程近い地点まで進んできているはず。そこで各地からの情報を受け取り、作戦の最終判断を下す予定になっているが、現在敵に動きはない。この分なら予定通り決行されるだろうとわたしは読んでいた。そして、わたしの仕事は本隊の到着を見届けて終了となり、予め決められた場所へ転移する手筈になっている。
もう少し、もう少し――逸る心を抑えつける。すると洞窟の入り口に向けられていたわたしの視界が、暗闇か僅かにゆらりとゆれるのをキャッチした。それは水面に発生した蜃気楼のように揺らめきながら姿を現す。
洞窟の黒とフード付きポンチョの艶消しの黒との境界線が徐々に浮かび上がり、膝上辺りで裾が足の動きに同調して不気味に揺れる。目深に伏せられたフードのせいで人相は判別し難いが、この人物が《嗤う棺桶》の一員であるという仮定の下においては人相の確認など必要ない。何故なら、この服装は彼らの首魁たるPohのトレードマークなのだから。
「……ッ!」
咄嗟に木陰に伏せたわたしは、心臓が破裂しそうなほどに大きく飛び跳ね、冷や汗が全身から吹き出すのを感じていた。恐る恐る、草の合間からPohの姿がギリギリ視認できる高さまで目線を上げる。Pohは洞窟を出たところで回転し、本隊の移動ルートとは逆方向に歩いていく。
その瞬間、わたしの思考は大きく揺れた。今わたしにできる選択肢は三つ。この場に残り偵察を続けるか、Pohの移動を本隊へ伝えに向かうか――あるいは、Pohを追跡するか。
出てきたのがPohでさえなければ、わたしは考えるまでもなく本隊への報告を選択しただろう。元
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