アインクラッド 後編
All for one, one for――
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て皆を集め、前に立った義務があります。相手が人だからと言って、背を向けるわけにはいかない」
自分に言い聞かせているようにも聞こえるアスナの言葉を耳にしながら、わたしは彼女の視線が一人の少年に向けられているのを察した。黒いコートを着、黒の鞘に収まった片手剣を背負った、少し線の細い、見かけは少し頼りなさそうな剣士。しかし彼女は、彼が誰よりも頼りになる人だということを知っている。知った上で、頼っているのだ。今この瞬間、折れそうになっている気持ちを、キリトという存在で補強して、あるいは、彼を自分が守るのだという決意で奮い立たせて、必死に前を向こうとしている。その姿を見て、わたしは少し安心した。
アスナは強い。孤独と不安に押し潰されたわたしとは違い、第一層の頃からその鋭い剣技で攻略の最前線に立ち続けてきた。そんな人でも、わたしと同じように不安になり、好きな男の子に助けを求めたがっている。わたしと同じように。
「……うん。わたしも、参加、しようと思う」
わたしは小刻みに何度も頷きながら参加の意を示した。ここには今、わたしが助けを求めたい人はいない。恐らく今回の案件を鑑みれば召集命令くらいは出しているのかもしれないけれど、本人が例外なく連絡を絶っていて居場所も分からないのだから、出したところで届くはずもない。実際に、あの日以来、マサキ君はわたしたちの前どころか攻略にも全く顔を出していないのだ。
ただ……今回は、それでもいいとわたしは思った。マサキ君は、ラフィン・コフィンとの戦いで親友を喪い心に深い傷を負っている。そんな彼に、再び同じ相手と殺し合いをさせたくはないというのが正直な気持ちだった。
「本当?」
「うん。……わたし、偵察部隊だし、ね」
そしてこれがもう一つの大きな理由だった。アジトに乗り込み、直接ラフィン・コフィンのメンバーと戦う本隊とは違い、本隊到着までに敵に動きがないかの偵察を担当する偵察部隊は対プレイヤー戦闘を行う必要がない。もちろん圏外である以上気は抜けないし、アジトの近くである以上、彼らとうっかり鉢合わせしてしまう可能性もある。それでも、“確実に”プレイヤー相手に剣を振るうわけではないという一文は、決して無視できない要素としてわたしの胸中に溶け込んでいた。
不安そうな顔で見つめてくるアスナに笑顔を返す。割合で見れば圧倒的に少数派になる偵察部隊の一員にわたしが選ばれた理由に、恐らくメンバーの選定に関与しているであろうアスナの友人というわたしの立場が影響しているのかは分からないけれど、それを尋ねるつもりはない。……だって、もし肯定されてしまったら、今後アスナと笑顔で会えなくなりそうだから。
「ありがとう。……絶対に、誰も死なせないわ。それがとても難しいってことは分かってる。でも、わたしはそういい続けなき
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