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銀河英雄伝説〜生まれ変わりのアレス〜
誘い
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きるさ」
 肩に置かれた手は暖かくて、それがライナの肩を押した。
「ありがとうございます。あ、あの」
「おっ。久しぶりに生意気な後輩の姿があるな」
 勇気を出したライナの言葉を遮って、明るい声がした。

「おーい、こっちだ、マクワ……いでぇ」
 この空気を読まぬ珍妙の客に、がんばれと心の中で応援していたフレデリカ・グリーンヒルは生まれて初めて上級生に手を挙げた。

 + + +

「ご、ごめんなさい。手をあげたらあたっちゃって……」
 言い訳をしながら、ハンカチを差し出す思いのほか強気の後輩の姿に、殴られた本人――ダスティ・アッテンボロー中尉を介抱している。
 だが、アレスの類まれな動体視力は見逃さなかった。

 振り勝った瞬間、フレデリカの見事な裏拳がアッテンボローの鼻先に叩きつけられたことを。あまりの速さに、それに気づいたのは自分と、アッテンボローの隣で目を白黒させているワイドボーンだけだろう。
 アッテンボローの鼻先を抑えながら、こちらの様子を伺う姿にやはりわざとかと、背後で自らの手をぎゅっと握るライナに視線をおろす。
 でも、いいのだろうか。

 アッテンボローの隣で戸惑っているのは、ワイドボーンだけじゃなく、彼女の思い人の姿もあるというのに。
 まあ、それはともかくとしてだ。
「何か?」
「あ、いえ。何でも」
「本当に?」
 覗き込んだ顔に迷いが見える。

 けれど、頑張れとの再びの視線に、ライナは強くうなずいた。
 本人は他を応援している場合じゃないのだろうに。
「あの、この前ハイネセンでデートしていたと聞いたのですが。お付き合いしている女性はいるのですか?」
 まっすぐな言葉だった。
 五学年の上級生や、その他の人間がいる場所で言うにはあまりにも勇気のいる言葉。

 誤魔化すのはあまりにも酷い。
 だから。
「確かにハイネセンでは部下と食事に行ったが、付き合ったとかそういうことはないよ。今はだれとも付き合うつもりはないしね」

 言い過ぎただろうか。
 けれど、それがまっすぐな理由であって。
 それにライナはどこかほっとしたように笑顔を浮かべた。
「今はとおっしゃいましたね。それは私が卒業するまで待ってくださるという……」
 いや、そういうわけではないのだが。

「ご安心ください。アレス先輩の応援を受けて、負けるつもりはございません。不敗の名前を汚すことはございませんから」

 今日一番に喜びを浮かべた少女の背後で、「ヤ、ヤン先輩!」とフレデリカの悲鳴が聞こえた。

 + + + 

 これは違うと必死の言い訳をしている場所へと近づいていけば、そこは混沌という言葉が最も似合う場所であった。
 後の魔術師ヤンに対して、頭を下げる金褐色の美しい女性。

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