誘い
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る。
フレデリカ自身も万全を期して臨んだ予選で、全滅という文句のない敗北を味わっている。
あの後輩もそうだし、アレス先輩もアレス先輩だ。
デートするにしても、この時期でなくてもいいのにと思う。
「烈火だ……」
そんな八つ当たりの感情を持て余していた耳に、小さな呟きが聞こえた。
+ + +
遠巻きにされながら、姿を見せたのは二人。
マルコム・ワイドボーン少佐とアレス・マクワイルド中尉の姿だ。
実績や階級自体はマルコム・ワイドボーンの方が上ではあるが、この場にいる候補生はワイドボーンが卒業してから入学したものばかりであり、名前は知っていても姿を知るものはいない。対するアレスは昨年まで在学しており、シミュレーション成績は無敗、さらには彼が当直の時には抜け出すなという不文律まで作り上げた人物だ。
成績こそ主席ではないものの、それは射撃や艦船操作などの一部の成績が壊滅的であったためであり、それ以外の成績は陸戦技能がフェーガンに続く二位で、その他も主席クラスを収めている有名人だ。
だからこそ、あの後輩も同じ時期に在学していなかったにも関わらずアレスの姿を知っていたのだろう。
それが姿を見せた。
小さくつぶやかれた言葉が、波となって広がっていく。
「アレス先輩」
もちろん気づいたのはフレデリカだけではない。
ライナもだ。
だが、彼女の顔には珍しいことに迷いが残っていた。
駆け寄りたいものの、駆け寄ってかける言葉を失っている。
気持ちはよく分かった。
フレデリカも憧れの先輩がデートをしていたと聞けば、どう話しかけていいかわからなくなる。
だから、ここは私の出番。
ぐっと拳を握って、声をかけようとして。
「アレス先輩!」
その声は無邪気な言葉に遮られた。
フレデリカは初めて、上級生を殴ろうかと思った。
+ + +
「アレス先輩、来てくださったんですね」
子犬のように――まさにその言葉のとおりに、セラン・サミュールはアレスに近づいた。
尻尾がついていればきっとちぎれんばかりに振られていたことであろう。
そんな様子に、アレスは戸惑いながらも片手をあげて、答えた。
「準備をしているってことは、まだ残っているのか」
「ええ。準決勝前です、今年もテイスティアを倒して優勝して見せますよ」
「その前に準決勝を勝たないとだけどな」
「大丈夫ですよ。応援してくださいね」
「残念だが」
アレスは肩をすくめた。
「応援の先約があってな」
と、小さく目を向ける先は、ライナだ。
目が合った。
迷っていた表情から、驚きの表情に変わり、椅子を鳴らして、慌てて立ち上がる。
見事なほどに完璧な敬礼をして。
「あ、
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