第71話『昏き雷鳴』
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浴びせることができるのだ。
「ブ……デ……ッタ…」
何かを呟きながら、終夜の黒い手がついに緋翼の頬に触れる。不思議とその手から痛みを感じることはなく、むしろ仄かな温もりを感じた。それが彼に残されている、人間である証。『闇』に完全に呑み込まれてしまえば、それも直に無くなるだろう。
──だから、
「無事で…良かった」
「…バカ、全然無事じゃないわよ」
──彼がまだ"終夜"であったことが、とても嬉しかった。
終夜を覆っていた『闇』は瞬く間に霧散し、彼はしゃがみ込んで静かに緋翼を抱き締めた。緋翼も目を細めて、涙を零しながらそれに応じる。終夜はそんな彼女の頭を、そっと撫でた。
「…悪かったな。助けるのが遅れちまって」
「べ、別に頼んでないし!」
「意地張んなって。ビビりまくってたじゃねぇか」
「何コイツ、無性に腹立つ」
緋翼の言葉に終夜は堪え切れないように噴き出す。つられて緋翼も笑みを浮かべた。
そしてお互いに生きていることに安堵し、再び彼らは抱き合った。
・・・と、そんな時間も束の間、
「え、先輩たち…?」
「「……!!」」バッ
その瞬間、二人は抱き合っていた身体を跳ね除けるように離し、声のした方を焦りながら振り向く。そこには二年生が四人、そしてその内一人に担がれた伸太郎の姿があった。
「お、おぉお前らか! 無事で何よりだぜ!」
「ホントホント! 暁もアンタらも凄いわ!」
「……」
誤魔化そうにも、二年生らの沈黙が心苦しい。というか気のせいだろうか、彼らの目が笑っているのは。気のせいだと信じたい。
「……ご馳走様です」
「「…っ、死ねぇぇぇ!!!!」」
終夜と緋翼の叫びが森中に木霊したのであった。
*
「もうすぐ祭壇じゃ。気を引き締めな!」
「はい!」
緋翼とも別れた晴登、カズマ、婆やの三人は、結月救出に向けて山を駆け上がっていた。ノンストップで走り続けているため足腰が悲鳴を上げているが、結月のためならそれも厭わない。
かくして三人は山の頂上、すなわち『竜の祭壇』に到着した。そこは今までの様に開けた場所であったが、違う点を挙げるとするならば、先にもう道が無いことだろう。
紅い月が照り、夜でも視界は良好だ。そのため、囚われの結月はもちろん、その傍に立つ一人の男の姿まで良く見えた。
「…おっと、もう到着かい? 随分と早かったじゃないか」
「ハルト!」
カズマに近い年齢と思われる青年が、そう語りかけてきた。黒髪を撫でつけ、黒スーツに身を包む美青年だ。カズマや婆やの服装を
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