第二十四話 逆鱗
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公をカワイイと見ていたはずだ。だがそうは思っても口にはしなかった。何と言っても相手はブラウンシュバイク公で帝国元帥で宇宙艦隊司令長官なのだ。宮中、軍の実力者をカワイイ等とからかう事は出来ない。
しかしその制約にたった一人、囚われていない人物がいた。皇帝フリードリヒ四世だ、皇帝は公式の行事の中で公をカワイイと評してしまった。悪気は無かったのだろう。おそらく娘である大公夫人から聞いていたからなるほどと思ったに違いない。だが皇帝が公式の場でカワイイと言ったのだ。他の人間が公をカワイイと言っても不都合は無い事になる。
しかも聞くところによれば公が皇帝の元から下がる間、皆が顔を伏せ笑うのを必死に堪えていたのだと言う。そして公は怒りに震えながらその中を歩いていたとか……。私はフェルナー大佐と共に紫水晶の間で控えていたから知らなかったけど想像するだけで寒気がする。
式典が終了するとブラウンシュバイク公は直ぐに宇宙艦隊司令部に戻った。地上車の中での公は当たり前だけど機嫌が悪かった、声をかける事が出来なかったほどだ。司令部に着いて決裁文書にサインを始めても不機嫌な表情は変わらなかった。
驚いたことに最初の二、三枚は力を入れ過ぎてサインを書き損じたほどだ。こんな事今まで一度も無かった、思わず目が点になって公をまじまじと見詰めた事を覚えている。
フェルナー大佐が司令長官室に転がり込んできたのは三十分ほどしてからだったと思う。大佐は顔を引き攣らせながら公に話しかけた。多分私も聞いているうちに顔が引き攣ったと思う。公とフェルナー大佐と私、三人だけの司令長官室は凍りついていた。
“あ、その、公?”
“エーリッヒで良い”
“いや、しかし”
“エーリッヒで良いんだ、アントン”
低い地を這う様な声だった。公は不機嫌そうな表情で決裁文書に視線を落とし大佐の方へは一度も視線を向けなかった。そして乱暴なまでの勢いで文書にサインをすると顔を顰めた。サインが気に入らなかったらしい。フェルナー大佐が蒼白な顔で私を見たけどとてもじゃないけど口など出せない。黙って見ているのが精一杯だった。
“落ち着いてくれ、な、あれは悪気は無かったんだ”
“あれって言うのは何かな、アントン”
“いや、だから、その、陛下が、卿を、カワイイと言った事だ”
“……”
恐る恐ると言った口調だった。私はフェルナー大佐を呆然として見ていた事を覚えている、大佐が情けなさそうな表情で私を見返した事もだ。そして慌てて大佐から視線を逸らしたことも……。多分私は心の中で皇帝を罵っていただろう、口に出していたら不敬罪で捕まっていたに違いない。
“エーリッヒ?”
“……落ち着いているよ、卿こそ落ち着いたらどうだ”
“そ、そうだな、落ち着こう。……あれは悪気は無かったって理解
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