96部分:イドゥンの杯その二
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イドゥンの杯その二
「私は嫌な予感がするのだ」
その知的な顔が曇った。
「私の研究が。恐ろしいことになるのではないかとな」
「まさか」
「いや、有り得る」
トリスタンは冷静な声で述べた。
「今研究していることはな」
「はい」
「生命の生と死についてだ。死んだ者を復活させるという」
「命を」
「そうだ。死んだ肉体を蘇らせ、そこに命を戻す。これまで誰もが望んでも得られなかった復活の妙薬だ。若しこれが悪用されれば」
「その影響は言わずもがな、ですな」
「そうだ。それだけはあってはならない」
声が深刻なものとなっていた。
「だからこそ研究も機密にしている。それを知っているのは私と僅かな腹心の家臣達、そして」
「クンドリー殿だけですな」
「そうだ。そなた達のことは知っている」
「有り難うございます」
代々カレオール王家に仕えてきた者達である。知らない筈がなかった。そしてトリスタン自身人を見抜く目は持っていた。また、だからこそクンドリーを怪しんでいるのである。
「だがクンドリーは違う」
それに関しても言及してきた。
「彼女は。まだよくは知らない」
「はい」
「何者かもだ。経歴等はわかるか」
「いえ、まだ」
「そうか。ではすぐに調べてくれ」
彼女に関する調査を命じた。
「まさかとは思うがな。怪しげな経歴であった場合は」
「すみやかなる対処を」
「この件だけは。厳密にしなければならない」
トリスタンの声が重いものとなった。
「悪用されでもしたら。大変なことになるからな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
「クンドリー殿の調査を開始します」
「頼んだぞ」
こうして彼女に関する調査が極秘のうちにはじまった。だがそれは表立っては現われなかった。トリスタンはそのまま研究と政務を続け、クンドリーは研究の助手として留まった。その関係は何ら変わるところがなく彼もクンドリーも順調に研究を進めていた。少なくとも表面上は。
研究を進めながらトリスタンはイドゥンの危険性についても知るようになっていた。それは生物の細胞を急激に修復させるということと復活させることである。彼はそれを利用すれば恐るべき生物兵器が完成することも把握していた。
「だからこそだ」
彼は心の中で思っていた。
「これを外に出すことだけは避けなければならない」
そう常々思っていた。
「私以外の何者も。これを知ったならば」
恐ろしいことになることがわかっていた。
「クンドリーであっても知らせるわけにはいかない」
事実彼女には当たりさわりのないことしかさせてはいなかった。重要なことは全て自らが行い、そして研究を進めていたのだ。資料には書いていても。
「警戒が必要か」
これも忘れてはいなかった。
「惨
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