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リング
95部分:イドゥンの杯その一
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えず、こくりと頷いた。
「お願いします」
「わかった。では早速頼むぞ」
「わかりました」
 こうして彼女はトリスタンの助手となった。政治家でもあり王でもある彼はそちらでも多忙であり、科学の知識のある助手の存在はそれだけで有り難い。だが彼女はただの助手ではなかった。
 実に優秀な助手であった。全てを知っているかの様に動き、そして忠実であった。彼女の存在でその研究はさらに進み、遂には完成まであと一歩まで近付いていた。しかしその研究が進むにつれて彼女の行動に不審なものが見られるようになったのであった。
「妙だな」
 トリスタンもそれに気付いていた。
「クンドリーのことだが」
 側近の一人に密かに問うた。
「どう思うか」
「私は科学のことはわかりませんが」
 その側近はまずこう断ったうえで述べた。
「優秀な方だと思いますが」
「その動きについてはどう思うか」
「動きですか?」
「そうだ。おかしいとは思わないか」
「それは」
「最近。妙なのだ」
「といいますと」
「何かを隠しているのだ」
「陛下にですか」
「そうだ。何かを探っている」
「何かを」
「イドゥンに関することをな。どうやら密かに探っているようなのだ」
「研究の為ではないでしょうか」
 側近はまずはこう答えた。
「クンドリー殿は優れた方ですし」
「だといいがな」
 しかしトリスタンの声は懐疑的なものであった。

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