第四章
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「そうして死ぬからな」
「そうなの」
「とりあえず花火を見て死ぬ」
このことは絶対だというのだ。
「それまでは絶対に生きてやるからな」
「そうなの」
「もう御前等も気にするな」
腕を組みその皺だらけの顔で遥だけでなく弓香にも話した。
「いいな、俺のことはな」
「いいの」
「そうしてなの」
「私達は」
「そのまま」
「夏になったら花火に行くからな」
毎年通りにというのだ。
「いいな」
「じゃあ私就職活動頑張るから」
遥は何とか父を励ましたいと思って父にこう言った。
「就職先見付けるから」
「そうするんだな」
「夏までにね」
「だから俺のことはいいんだよ」
「花火をなの」
「今年も見に行くからな」
こう言うだけだった、そしてだった。
元太郎は自分のことを会社にも行ってそのうえで夏を待った、彼にとっては待ち遠しい例年以上にそうだったが。
七月に入るとだ、遥の就職も決まっていて彼もだった。
花火を見に行く様になった、自分の家から行ける花火大会には常に弓香と遥を連れてそのうえで出てだった。
花火を見た、いつも最初から最後まで見て家に帰る、そして家に帰るといつも二人にこう言っていた。
「明日も行くぞ」
「花火を見に」
「そうするのね」
「そうだ、明日もな」
そうするというのだ。
「行くからな」
「そうするのね」
「八月が終わるまで」
「そうするからな」
彼は己の言葉通りにだった、夏の夜の花火をひたすら見た。七月が終わって八月になってもそうした。
そして彼が見られる最後の花火を見終わるとだった、遂にだった。
元太郎は入院した、後は瞬く間であった。その半年を待たない間に余命幾許もないといった状況になった。
だがそれでもだ、彼は病院の病床で付き添いでいる妻と娘に言った。
「好きなことをやった、花火も好きなだけ見た」
「だからなの」
「満足っていうのね」
「そうだ、御前等には悪いことを散々してきたしな」
このことも言うのだった。
「最悪の旦那で父親だったな、しかしその俺ももうすぐ死ぬからな。後は精々俺の悪口を言ってくれ」
「まだそう言うの」
「事実だからな、いいな」
娘に顔を向けて言うのだった。
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