第三章
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「もう本当にですよ」
「死ぬっていうのにか」
「よくそんなに落ち着いていますね」
「人間は死ぬだろ」
元太郎は自分に言う医者を睨む様に見て言った。
「そうだろ」
「誰でもですか」
「そうだ、誰だってな」
それこそというのだ。
「死ぬんだ、まして俺は好き勝手やってきた」
「これまで」
「そうだ、本当にな」
酒に女にとだ、自分の思い当たるふしを脳裏に浮かべつつの言葉だった。その中には散々女房を泣かせた記憶もあった。
「それじゃあ癌になって死ぬのもな」
「当然ですか」
「酒は飲むし煙草もやった、若い時から無茶ばかりやってきた」
それではというのだ。
「癌にもなる、そして人は死ぬんだからな」
「ご自身がそうなられても」
「当然だ、だからな」
「長くて半年ですよ」
「長くてか、じゃあ八月が終わるまで花火を見続けてな」
そしてというのだった。
「死んでやるさ」
「入院は」
「少なくとも八月が終わるまではな」
夏、つまり花火の季節がだ。
「するものか」
「そうですか」
「ああ、まあ痛み止めは貰うかもな」
元太郎は医者に笑ってこうも言った。
「痛くて花火を楽しめないとか嫌だからな」
「モルヒネはいいんですね」
「ああ、あと家族にも話しておくな」
妻と娘にもというのだ。
「俺の口からな」
「そうされるんですね」
「死ぬんならそれを知っておいていいだろ」
家族もというのだ。
「精々嫌な奴が死ぬって話しておくさ」
「そうですか」
「ああ、だから入院も八月が終わるまでいいし」
「痛み止めだけ頂いてですか」
「会社にも行くさ、会社にも話すな」
勤め先にもとだ、元太郎は腕を組んで医者に話し続ける。その顔も言葉も平然としていて医者が驚く程だった。
「俺が癌で死ぬってことはな」
「ですか、では花火を」
「楽しむな、最後にな」
その人生のというのだ、こう話してすぐにだった。元太郎は実際に家に帰ると妻と娘にこのことを話したのだった。
「会社の健康診断で言われてな」
「癌の最終ステージで」
「余命半年なんて」
「ああ、だからもうな」
元太郎は家族にも平然と話した。
「花火を見て死ぬな」
「花火って」
「当り前だろ、花火を見ないでどうするんだ」
自分の死のことに驚きを隠せない娘に返した。
「今年のな」
「お父さんあと半年よね」
「長くてな」
「そんなこと言っていていいの?」
花火がどうとかとだ、遥は父に戸惑いつつ問うた。
「何とかしないと」
「何とかって何をするんだ」
「だから延命とか」
「もう助かる筈ないだろ」
癌の最終ステージならとだ、元太郎は娘に答えた。
「それじゃあな」
「何もしないの」
「花火に集中したいから痛み止めだけ
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