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父と花火
第二章

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「また明日も生きるぞ」
「生きるって」
「俺はガキの頃に花火を見てだ」
 元太郎は昔のことを思い出していた、彼が幼い頃のことだ。祖父に連れられて見た花火からのことだったのだ。
「それから花火が大好きになってな」
「今もなの」
「そうだ、見てな」
「明日もなのね」
「生きるからな」
「生きるって」
「人間は絶対に死ぬんだよ」
「絶対に?」
「この世で死なない奴なんているものか」
 花火、次から次に打ち上げられつつ消えていく空の花達を見つつの言葉だ。
「誰だって死ぬんだ、花火みたいに打ち上げられてな」
「そうしてなの」
「消えるんだよ」
 人間、つまり自分もというのだ。
「誰だってな、俺もな」
「お父さんも」
「消えるんだよ、だから消えるまでな」
 まさにその日までというのだ。
「生きる、だからな」
「それでなの」
「ああ、花火を見てな」
「生きるのね」
「明日もな」 
 こう言ってだ、元太郎は夏になるといつも花火を見ていた。その時は自分の妻に何もせずただ花火を見ていた。
 いつも次の日からは妻に暴力を振るい浮気をする悪い夫になっていた、だが。
 その彼もだ、遥が大学を受けると言った時はただこう言っただけだった。
「金はあるからな」
「じゃあ」
「行って来い」
 こう言ったのだった。
「そして勉強してこい」
「そうしていいの」
「言ったぞ」
 これが彼の返事だった。
「今な」
「それじゃあ」
「何も心配するな」
 弓香を横に置いて言った、そうして実際に大学に行く金を出してくれたりもした。だが遥が大学を卒業する年にだ。
 元太郎は倒れた、そうして医者に言われたのだった。
「肝臓癌、それも」
「どんな具合なんだ」
「末期、ステージ四です」
「それは悪いんだな」
「もうあとです」
 それこそと言う医者だった。
「半年も」
「半年、今四月だな」
「それが何か」
「ならいいさ」
 元太郎は余命半年と言われても落ち着いてこう言った。
「花火が見られるかな」
「花火といいますと」
「決まってるだろ、夏のあれだ」
 医者にはっきりと言った。
「打ち上げるな」
「その花火ですか」
「夏に見られるな」
「まあ半年ですから」
「花火は七月と八月だ」
 夏だとだ、元太郎はまた言った。
「それならいい」
「いいんですか」
「ああ、どうせなら花火を観てな」
 そのうえでというのだ。
「そうして死ぬな」
「余命半年で」
 それでとだ、医者は花火が見られるならと言う元太郎に戸惑いつつ話した。
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