第一章
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廃人
田坂好美は戦争に行っている時は衛生兵を務めていた、衛生兵としては優秀であったがその中で負傷した兵、死んだ兵を多く見てきた。それは彼の精神を確実に蝕んでしまいそれから逃れる為にだった。
ヒロポンをする様になった、それを打っている間は傷付いた兵士や死んだ兵士の姿を思い出さないからだ。
生活は戦場で左足を悪くしたことから戦傷手当や生活保護で慎ましく過ごしていた、もう働ける状況でないことは明らかだったのでそうして暮らしていた。
よく買ってきた河豚を自分で調理して食べていた、そんな好美に甥の慎太は首を傾げさせて好美本人に聞いた。
「おじさん河豚好きだね」
「ああ、好きだ」
その河豚の刺身を食べつつだ、好美は慎太にその都度答えた。好美は小柄で丸坊主の慎太から見て実に恰好よかった。背は高くすらりとしていて黒髪は短く刈っており顔立ちも整っている。これで足さえ悪くなければというものだった。
「だからこうしてな」
「よく食べてるんだね」
「そうだよ」
「河豚の免許持ってなくても」
それでもとだ、まだ子供の慎太は話した。
「河豚を料理出来るんなら」
「河豚の店開いてか」
「それで儲けられない?」
「ははは、わしはもう足も悪いしな」
いつも松葉杖だ、まともに歩けないのでそれで働くことも出来ないのだ。
「しかもヒロポンもしてるだろ」
「もう止めたんでしょ」
既に禁じられている、それで彼も止めたのだ。
「それならね」
「ヒロポンは止めても残るんだ」
「残るって」
「色々とな、だからわしはもうな」
「お店を開くことも」
「ああ、しない」
こう慎太に答えた。ちゃぶ台に座って河豚の刺身を食べつつ安い酒を飲みながら。
「免許も貰わない」
「そうなんだ」
「戦傷手当とか生活保護で暮らせるしな」
それで生活にも困らないからというのだ。
「わしはもうな」
「そうして暮らすんだ」
「そうだ、死ぬまでな」
「もうヒロポン止めても」
「だから残ってるんだ」
甥の言葉にだ、好美は悲しい笑みを浮かべて答えるのが常だった。
「ずっとな、わしは足が悪くて頭もおかしい」
「それでなんだ」
「もうこのままな」
「暮らしていくんだ」
「そうするしていくな」
こう言ってそしてだった。
好美は一人で働きもせず結婚もせずただ一人で暮らしていた。しかしそうした彼に対してなのだった。
ある女の人、若くて顔立ちも整った人が来てだ。出迎えた慎太に対して聞いてきた。この日も好美の家に来ていた彼に。
「田坂さんいますか?」
「おじさん?」
「はい、田坂好美さんは」
「今おじさんは散歩に出ているよ」
働いていなくてすることもないのでよく散歩に出ているのだ。
「だからいな
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