第四章
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「聞こえてきただろ、まずは」
「これは」
権作も聞いた、それは赤子の声だった。赤子が泣く声が山の中にそれも領域の方から聞こえてきたのだ。
「山の中でか」
「絶対にないな」
「山の中に赤子なんているか」
それは絶対にないとだ、権作も言う。
「山にいる連中が捨て子でもしない限りな」
「しかしわし等が行く山には山の連中はいないな」
「ああ、それはおらも知ってる」
山の民達はだ、彼等村に住んでいる民達とは違う民達だ。
「狩りに行く山には何処にもいない」
「この山にもな」
「それでも聞こえてくるんだ」
「こんなことがあるものか」
「来てるんだ、それで言ったな」
「見ろってな」
「頂上の方をな、いるぞ」
こういうとだ、悟作は実際にだった。
山の頂上の方を見た、権作もそれに続き犬達は既に見ていて怯えが極まった感じになっていた。それで見るとだ。
獣がいた、大きな熊程もある黒い毛で覆われた身体でだ。顔は黒く長い総髪の男のものだった。遠間だがそこにいた。
その獣を見てだ、権作は瞬時に悟った。その獣こそがだ。
「あれがか」
「ああ、この山の神様だ」
「そうなんだな」
声がその獣から出ていた、赤子の声が。
「本当にいたんだな」
「そうだ、わし等が領域に入ろうとしていると思ってだ」
「出て来たのか」
「わかるな、若し一歩でも入れば」
「襲って来るんだな」
「そうだ、だからだ」
「入るな、か」
「絶対にだ、いいな」
「わかった、帰る」
権作の顔は蒼白になっていた、真実それも知ってはいけない種類のものを知ってだ。そうしてであった。
彼は悟作そして犬達と共に山を降りた、悟作が言うまでもなく自分からそうして悟作と犬達は彼についていってだった。
山を下りた、そして村に帰ってからだ。
権作は悟作にだ、獲物を燻製にする為に共に捌きながら話をした。
「なあ、いるのはわかったがな」
「山の神様がだな」
「まさかとは思ったがな」
肉を捌きつつ悟作に言う、その捌き方は年季のせいか悟作の方が上手だ。
「いるなんてな、ただな」
「わしがどうしていると確かに言えたかか」
「それがおらは気になるんだがな」
それで聞いているのだ。
「どうしてなんだ」
「同じだったんだよ」
「同じ?」
「わしも御前さんと同じ位の頃はそう思っていた」
「あの山に神様なんているかってか」
「そんな神様がいるかって思っていたんだ」
そうだったというのだ。
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