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入らない場所
第一章
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                入らない場所
 安芸の国の奥は山々が連なっている、そこには多くの獣達がいて猟師達はその獣を狩って暮らしていた。
 だがその中で最も高い、通称荒神山のある高さまでは入らない。このことについてだ。
 山の近くの村に住む若い猟師である権作は眉を顰めさせて言った。
「何で荒神山には皆高いところまで登らないんだよ」
「あの山は別なんだよ」
「そうなんだよ」
 同じ村の年配の猟師達が彼に話した、皆今は猟から帰って大猟だったので村の神社の境内で祝いで飲んでいる。その中で権作が言ったことに答えたのだ。
「神様がいるんだよ」
「山の神様がな」
「それもとんでもなく荒い神様がな」
「自分の領域に入った奴を食い殺す神様がな」
「その神様がいるからだよ」
「皆あそこには入らないんだよ」
 こう権作に話すのだった。
「だからわし等もだ」
「あの山にはあまり入らないしな」
「入ってもあまり高く登らないんだよ」
「神様の場所だからな」
「そんな神様いる訳ないだろ」
 権作は仲間の猟師達に怒った様な顔になって返した。
「山の神様はいてもそんな人を食う神様とかいるか」
「昔からそう言われてるんだ」
「そうな」
「だからだよ」
「あの山には誰も高く登らないんだよ」
「高い場所まではな」
「だからそれは嘘だ、そんな神様いるものか」
 まだこう言う権作だった。
「そんなこと言うならおらがだ」
「おい、まさかと思うが」
「荒神山に入ってか」
「高い場所に行くのか」
「そのつもりか」
「そうだ、行ってやってだ」
 そうしてというのだ。
「そんな神様いないってことを確かめてやるからな」
「止めておけ」
 一番年配の猟師である悟作が権作に言った、髪も髭もすっかり白くなっているが身体つきはしっかりしている。
「それはな」
「爺様はそう言うがな」
「御前さんはそう思ってるんだな」
「そうさ、荒神山にそんな神様いるか」
 人を襲う様な神はというのだ。
「そんな神様いてもおらの鉄砲でだ」
「やっつけるんだな」
「そうしてやる、おらの鉄砲の腕前は知ってるだろ」
「ああ」 
 悟作は権作の今の言葉にすぐに答えた、実は権作はまだ若いが村で一番の鉄砲撃ちであり狙いを外したことはないのだ。だから猟ではいつも獲物を手に入れている。
「それはな」
「だからだ、そんな神様がいてもな」
「鉄砲でやっつけるんだな」
「そうしてやる」
 こう言い切った。
「何があってもな」
「それじゃあどうしてもか」
「ああ、今度の猟の時は荒神山に入ってな」
 そうしてというのだ。
「神様をやっつけてやるからな」
「そう言うか、それならな」
「それなら、何だっていうんだ」
「わしも一緒に行く」
 
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