第三章
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「憂いも消えるものか」
「ではもう」
「御心はですか」
「穏やかになられましたか」
「旅に出られる前と違って」
「うむ」
確かにという返事だった。
「そうなった、ではあらためてな」
「参内もですな」
「それもされますか」
「その様にされますか」
「そうさせてもらおう」
実朝は無事に朝廷にも戻った、そしてだった。
彼は帝の御前にも出た、そのうえで帝に戻ったことを話すとだった。帝は彼に言われた。
「戻って何より、ではだな」
「はい、憂いも悩みもです」
「消えたか」
「そうなりました」
「それは何より」
帝は彼に対して答えた。
「やはりな、ではな」
「はい、これからはです」
「あらためてだな」
「務めに励ませて頂きます」
「そうしてもらうぞ」
帝は実朝に喜びの声をかけられた、そのうえで彼に朝廷でこれまで通りに働いてもらった。そしてその中でだった。
彼は己の仕事に励み夜も妻や他の女のところにも回っていた、そのうえで歌も詠っていたがその歌はというと。
旅に出るまでや旅の間の憂いはなくなっていた、恋愛のよさを楽しむ感じだった。それは時成に会った時も同じで。
彼と共に飲み歌を詠い会っていた時も同じだった、それで時成は己の屋敷で見事な歌を書いて飲む彼に尋ねたのだった。
「旅から戻られて歌が」
「変わったというのですね」
「はい、そうなられましたが」
「私もそう思っています」
自分自身もとだ、実朝は時成に穏やかな声で答えた。
「歌がです」
「変わったとですね」
「はい、これまでの私はです」
旅に出るまで、そして食べる時はというのだ。
「適わぬ恋に悩み憂いていまして」
「そうしてですか」
「詠う歌もです」
それもというのだ。
「やはりです」
「悩みと憂いにですね」
「満ちていました、しかし」
「それがですか」
「その二つが消えましたので」
それ故にというのだ。
「今はです」
「歌もですか」
「変わりました」
そうなったというのだ。
「自分でそれがわかっています」
「そうですか」
「そうです、適わぬ恋に焦がれていても」
ふと遠い目になってだ、実朝は時成に話した。その遠いものを見る様な悲しい目は時成に向けられていた。
「その想いをです」
「旅で、ですか」
「癒してです」
「消してきたのですか」
「そうしてきました、若しあのまま都にいたならば」
その時はというのだ。
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