第三章
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その異形の者がだ。二人を遠くからであるが血走った目で見ていたのだ。彩夏は蒼白になったまま明良に言った。
「先輩から聞いたお話そのままよ」
「私も彩夏ちゃんから聞いたままよ」
「あれがね」
「一本だたらなのね」
「山脈とは違うからこっちには来られないけれど」
「それでもよね」
「こっち見てるわね」
つまり自分達を狙っているのだ。
「それでもあそこから出られないから悔しいのね」
「何て血走った目」
その目に感情が出ていた、妖怪のそれが。
「若しあの中に入ったら」
「絶対に襲われるわね」
「そうなるわね、いや本当にね」
彩夏は顔から汗、脂汗を滝の様に流しながら開明に話した。
「若しも先輩のお話を聞いてなくて開明ちゃんに旧暦の日付聞いてなかったら」
「その時はね」
「私達あの妖怪の餌だったわね」
「絶対にそうなってたわね」
「いや、運がよかったわ」
自分達をまだ見ている妖怪の方を見ての言葉だ。
「あんなのに襲われたらね」
「もうどうなっていたかね」
「わからないわ、いや妖怪って本当にいて」
「人を狙ってることもあるのね」
「そうね、じゃあね」
「今からね」
「高野山の方に行って」
界無山脈も伯母ヶ山も入らずにというのだ。
「五條からね」
「奈良に入りましょう」
こう二人で話してだ、車を再び動かさせて奈良県に向かった。二人は無事奈良県に入ることが出来たが。
あの妖怪のことを思い出してだ、どうしても笑顔になれなかった。だが同時にこうも思うのだった。
「いや、本当にね」
「私達運がよかったわね」
「そうよね、あの日あそこに入らなくて」
「よかったわ」
「そうした場所は実際にあるのね」
しみじみとした口調で言った彩夏だった。
「世の中には」
「最初はまさかって思ったの」
「かなり信じてたけれど」
先輩の話をだ。
「けれどね」
「本当だったのね」
「怖く思ってね」
「それで運がいいともなのね」
「思ってるわ、本当に十二月二十日はね」
この日はというのだ。
「あそこに入ったら駄目ね」
「昔の人の言う通りよね」
「昔の人の伝承は否定出来ないってことね」
「そうね、いやあんなのに襲われたら」
明良も言う。
「本当にね」
「どうなるかわからないわね」
「私達は運がよかったわ」
「妖怪の話を聞いていて旧暦も知っていて」
「本当によかったわ」
「神様に感謝ね」
二人でこうした話をしてだった、そのうえで。
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