第三章
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次々に飛び立っていく特攻隊の連中を見てだ、俺は鹿屋での部下達に対してこれ以上はないまでに苦い顔で言った。
「死にに行くな、今日も」
「はい、出た数だけ帰って来ない」
「いつもそうですね」
「特攻隊は」
「そうですね」
「ああ、出撃してな」
俺は飛び立っていく連中を見つつまた言った。
「靖国に行くんだ」
「ですね、先にですね」
「靖国に行ってますね」
「そうしていきますね」
「今日もまた」
「靖国か」
俺はあそこのことを思った。
「あそこにあいつもいるな」
「隊長がよく話されている同期の方ですね」
「兵学校での」
「あの方ですね」
「マリアナで戦死されたんですよね」
「ああ、いい奴だった」
俺は部下達に答えた。
「本当にな」
「その方も今は靖国ですね」
「そちらにおられますね」
「そうだ、そして俺もだ」
自然とこの言葉が出た、自分でも思いもしなかったが言って驚きはしなかった。言って当然だと思った。
「すぐにな」
「靖国に行かれる」
「そうされますか」
「そうなる、そしてあいつとな」
すぐに貴様のその顔が脳裏に浮かんだ。
「会う」
「ですか、では私達も」
「続きます」
「それは御前等が決めろ」
他の奴に死ねと言うつもりはなかった、もう日本が負けるのはわかっている。それからのことを考えると少しでもいい奴、出来る奴が生き残るべきだからだ。部下達には死ねと言うつもりは全くなかった。
「俺は俺で決めた」
「そうですか」
「そこは私達で、ですね」
「そうしろ」
こう言ってだ、そしてだった。
俺はすぐに司令のところに行って申し出た、その申し出た言葉は決まっていた。
特攻隊に志願した、司令は最初躊躇したが俺の熱意に折れてくれた。
そうして俺も特攻隊として出撃することになった、後は出撃の日を待つだけだった。
幸い妻子はいない、両親のことは今弟に遺書を書いて頼むと告げた。思い残す様なことも全てしておいた。
明日俺は出撃する、そのうえで死ぬ。そしてだ。
靖国にいる貴様に会いに行く、靖国の社には春には桜が咲く。俺はその桜の花になって同じく花になっている貴様と共にいたい。そうして共に護国の鬼となり日本を護ろう。生きて咲いた花は散る、だが貴様は見事散ったし俺も散る、それからは靖国でそうしよう。
同期の桜 完
2017・10・19
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