第一章
[2]次話
殿様と西瓜
どの藩の話かはわからない、だからここではその藩の藩主を殿様とだけ書いておくことにする。
この殿様は夏の暑い時に城の中でその話を聞いて興味を持って家老に尋ねた。
「今の様に夏の暑い時に民達は美味いものを食して涼を取っておると聞いた」
「美味いものをですか」
「うむ、それが何かをな」
「殿はですな」
「知りたいのじゃが」
「夏にですか」
「何であろうな、瓜か」
まずは自分が食べているそれを出した。
「あれは美味いし甘い」
「瓜は民も食していますな」
家老もこう答えた。
「確かに」
「そうじゃな、瓜はどんどん作らせて皆に食わせている」
これはこの藩で昔から行っていることだ。
「我が藩の産にもなってな」
「よく売れてもいますな」
「それか」
「さて、どうでしょうか」
家老は殿様の言葉を聞いて自分も興味を持ってそれで言った。
「それは」
「瓜ではないか」
「そうやも知れませぬな」
「ではあれか」
瓜ではないならとだ、殿様はあらためて言った。
「氷か、あれで涼を取っているか」
「いえ、氷はとても」
「民達はか」
「はい、冬に氷室に置いた氷を食することが出来るのは」
それこそと言うのだった。
「殿もそうですが」
「そうそうおらぬか」
「はい、あれは贅沢なものではありませぬか」
「我が藩も時折上さ様に献上しておるしな」
江戸の将軍、公方と呼ばれる存在にだ。
「それだけにな」
「あれはとても民達の口には入りませぬ」
「あの冷たさを民達にも味わって欲しいがのう」
「流石にそれは」
どうにもとだ、家老は殿様に難しい顔で答えた。
「難しいです」
「では氷ではないか」
「はい」
家老もそれは断った。
「左様です」
「ではあれか」
殿様が次に出したものはというと。
「胡瓜か」
「夏だからですな」
「うむ、胡瓜といえば夏でな」
「あれもですな」
「水気が多くてな」
それでというのだ。
「涼が取れるからな」
「あれを食してですな」
「涼を取っておるのか」
「そうやも知れぬとですな」
「余は考えたが」
見れば若く面長の気品のある顔立ちだ、先代の藩主である父の隠居に伴い藩主となりまだ日が浅いが民と藩を思う気持ちは強い。それで自分より二十歳も年上の家老に言うのだった。
「違うか」
「どうでしょうか」
「ううむ、ここであれこれ言ってもな」
「わからぬと」
「それではな」
殿様は袖の中の腕を組んで考える顔で家老に言った。
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