第三章
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「それだけなのですか」
「それだけとは」
「その宣教師にその考えを捨てよだの異端だの言われなかったのですが」
「まさか」
有り得ないという顔でだ、羅山は阿蘭陀人に返した。
「学問の論争、ではです」
「それで終わりですか」
「学識で勝ったことなので」
「それだけですか」
「それが何か」
「いえ、欧州にはガリレオ=ガリレイという学者がいまして」
「その御仁が何か」
「先生とは逆に地動説を言われていまして」
そうしてというのだ。
「教会、日本で言うと日本全体を自分達だけにしている宗派でしょうか」
「西洋全体をですか」
「確かに今は異なる宗派もありますが」
それで殺し合いそのものの戦争をしているがというのだ。
「そうした巨大な宗派なのですが」
「その宗派がその御仁とですか」
「自分達の説と違うと自説を捨てる様に迫ったのです」
「いや、それは違うのでは」
羅山は阿蘭陀人のその話を聞いて思わず首を傾げさせて返した。
「幾ら何でも」
「先生はそう思われますか」
「論戦で負けても自説が正しいと思えば」
「それで、ですね」
「考えを捨てることはないですが」
「西洋では違いまして」
こちらではというのだ。
「教会は自分達こそが唯一の正義と考えているのです」
「唯一ですか」
「そして絶対の」
「だからそのガリレオ=ガリレイという御仁の学説も」
「地動説をです」
「捨てる様に迫ったのですか」
「そうして日本で言うお白洲にまで連れ出し徹底的に責め上げたのです」
「いえ、お白洲は」
とてもとだ、また言う羅山だった。
「とてもです」
「日本ではありませんね」
「学説ですから」
それだけのことであるからというのだ。
「とてもです」
「ですが西洋ではです」
「そこまでのものですか」
「信仰、そして教会は絶対なので」
だからだというのだ。
「教会と違う主張は絶対に認められないのです」
「信じられませぬな、本朝ではです」
羅山は夢それも悪いそれを聞いている顔で阿蘭陀人に返した。
「とてもです」
「先生は仏教がお嫌いですね」
「はい、ですが幕府には僧侶の御仁も多くおられます」
彼とは考えが違う者もというのだ。
「そして地動説もです」
「言われていますね」
「私と考えは違いますが」
幕府きっての学究と言われている彼もというのだ。
「それで考えを捨てろなぞとはです」
「とてもですね」
「強制なぞ、そうした考えまでは」
「この国ではですね」
「言う筈もなく」
「強制もですね」
「学説に過ぎないではないですか」
羅山は阿蘭陀人にはっきりと言った。
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