第六章
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「そちらに着替えてきます」
「ドレスですか」
「こちらのお店にお願いして用意してありました」
「ドレスも」
「はい、ですから今から」
着替えてくるというのだ。
「申し訳ありませんが暫くお待ち下さい」
「わかりました」
僕はこう答えた、そしてだった。
僕達は席について彼女を待った、あちらの部長さんと三人で待っていた、食事もワインもまだでだ。
少し待っていると彼女が来た、その彼女は。
ワインレッドの胸が大きく開いたドレス姿で来た、髪も上げてメイクも妖しくなっていた。仕事の時や先程までの着物姿と全く違っていた。
それでだ、僕は今度は。
その妖艶な、とんでもない色香に唖然となった。先程までの清純さは何処にもなかった。これまでわからなかった大きくて形のいい胸にだった。
白い肌と鎖骨、肩もだ。見えている範囲がとにかく艶やかでだ。僕は今度はその妖しさに息を飲んでだった。
彼女を見るとその後ろにだ。
満月があった、黄色い満月に照らされた彼女を見て余計にだった。神経がそっちにいってしまって。
これまで食べたことも飲んだこともない料理やワインの味は全くわからなかった、美味しかったことは事実だったと思うけれど。
この時も彼女にばかり目と耳がいってしまって彼女のディナーの説明よりも彼女ばかりでだ。それでだった。
食べ終わってだ、部長にまた言った。
「全然わかりませんでした」
「ワインの味も料理のそれもかい」
「あの人ばかり見て」
「能の時と同じだね」
「部長はどうでした?」
「君と違って向かい合っていなかったからね」
「だからですか」
僕程彼女を見ていない理由がここでわかった。
「部長は大丈夫だったんですか」
「そうだよ」
「そうですか、ただあの人と隣でもあちらの部長さんは」
「あちらの部長さんは彼女の叔父さんだよ」
「そうだったんですね」
「うん、だから何もないんだよ」
あれだけの人がすぐ隣にいてもというのだ。
「親戚だからね」
「子供の時から一緒ならですか」
「君みたいにはならないね」
「あのですね」
僕はレストランからの帰り道でも部長に囁いた、もうあちらさんとは笑顔で別れている。それで夜道で男二人になっているのだ。
「今度はですよ」
「ヴェーヌスかな」
「そうでした」
「昼はエリザベートでだね」
「夜はそうでした、同じ人の筈なのに」
それでもだ。
「全く違う雰囲気でした、何か」
「何か?」
「タンホイザーのお話ですけれど」
僕はそのエリザベートとヴェーヌスが出て来る作品の話をした。
「今日わかりました」
「清純さと妖艶さはだね」
「一人の女性にあるんですね」
「それがわかったんだね」
「はい、あの人を見てわかりました」
「ワーグナ
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