第五章
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「目と耳がいって」
「それでだね」
「とてもです」
能なんてだった、もっと言えば僕が能を観たのははじめてだった。
「頭に入らなかったです」
「ひょっとして君の」
「タイプかっていうんですね」
「そうなのかい?」
「いえ、僕のタイプはもっと庶民的で」
「ああしたお嬢様はかい?」
「駄目なんですよ」
高嶺の花というか何か住んでいる世界が違うからだ、あと僕は基本的に京都には馴染めない。大阪人であるせいか。
「どうにも」
「凄いと思っていてもだね」
「そうなんですよ」
こう部長に話した。
「奇麗だとは思いますけれど」
「そうなんだね」
「はい、けれどあれだけ和服が似合うなんて」
僕はあらためて思った、あの人の清純な奇麗さに。
「本当に凄い人がいますね」
「お姫様みたいだね」
「そう言っていいです」
「エリザベートみたいな」
「日本ですけれどね」
僕はこのことは笑って返した、能よりも彼女の方に目と耳がいっていて結局それどころではなかった。
そして夜はだ、フランス料理となったが僕はお店に入る前に部長にそっと囁いた。
「お金は」
「経費で落ちてるからね」
「それはよかったですね」
「一人六万円のお店だからね」
「六万ですか」
「桁が一つ違うって思ったね」
「僕が知ってるレストランとは」
フランス料理でもだ。
「そんなお店本当にあるんですね」
「そうなんだよ、これが」
「キャビアとかフォアグラとか出るんですか」
「そうだろうね、メニューの内容までは知らないけれど」
「想像を絶する世界ですね」
「その想像を絶する世界にだよ」
「今からですね」
「入るからね」
「ちょっとすいません」
ここでだ、その彼女が僕達に言ってきた。今も着物姿だ。
「着替えてきて宜しいでしょうか」
「着替えるんですか」
「このお店はフレンチなので」
だからだというのだ。
「正装は必須ですが着物よりもです」
「今の服よりもですか」
「ドレスの方がいいので」
だからだというのだ。
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