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月夜のヴィーナス
第二章
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「清純も妖艶もあると思いますが」
「それでもかい?」
「あんなに極点な清純と妖艶がですよ」
 一人の女性の中にあってだ。
「両方を出せる人とか」
「いないというんだね」
「そう思いますけれど」
「ははは、そのことはそのうちわかるかもね」
「そのうちですか」
「君もね」
 部長は笑って僕に言ってきた。
「わかるかもね」
「そんなものですか?」
「そう、そうした女性に会ってね」
「そうは思えないですが」
「そのうちだよ、このことを知るには」
 僕の顔を見て笑ったまま言ってきた。
「君は恋をすることだ」
「あの作品の主人公みたいにですか」
「タンホイザーの様にね」
「二人の女性の間を揺れて」
「一人の女性だよ」
 このことは舞台の中の彼とは違うということかと思うと部長は僕にこう言った。
「だからあの二人のヒロインはね」
「実はですか」
「一人の女性の二面性を表しているからね」
 それでというのだ。
「彼はあの演出だとね」
「一人の女性をですか」
「愛していたという解釈も出来るんだ」
「そしてその人の清純を選んで、ですか」
「救われたんだよ」
「哲学的ですね」
「ワーグナーは歌劇の中で特に哲学的だよ」
 やっぱり部長の方がワーグナーが好きなんじゃないかとまた思った、妻が好きだから自分は付き合いだと言っていたけれど。
「それでだよ」
「そうした解釈も出来るんですか」
「そうだよ」
 まさにというのだ。
「だからだよ」
「僕もですか」
「魅力的な女性に出会ってね」
 そうしてというのだ。
「是非共だよ」
「恋をしてですか」
「そうしたことも知るべきだよ」
「あそこまで極端な清純と妖艶を併せ持った人もいる」
「実は私の妻もだしね」
「そうなんですか」
「だから実際に会っても妻を好きになってはいけないぞ」
 部長はこのことは少し真剣に言ってきた。
「いいね」
「人妻趣味はないですから」
「それはいいことだよ、実はワーグナーは恩人の奥さんと不倫をして弟子の奥さんを奪って自分の奥さんにしているからね」
「それ人間として最低ですよ」
 正直話を聞いてすぐにこう思った。
「どういった人間ですか」
「しかも浪費家で今で言う自作自演をして逆恨みで反ユダヤ主義になっていて失言癖に放言癖もあって図々しくて尊大だったというね」
「絶対に一緒にいたくない人ですね」
「人間性と敵の多さではベートーベンに匹敵していたね」
「ベートーベンも凄かったらしいですね」
 彼のことは僕も知っていた。
「頑迷で気難しくて尊大で癇癪持ちで」
「コミュニケーション能力は皆無で世渡りも下手でね」
「凄く付き合いにくかったそうですね」
「その彼ともね」
「匹敵していたんですか」
「音楽
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