巻ノ百三十八 仇となった霧その三
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「別によい」
「左様ですか、では官位もですか」
「そちらもよいですか」
「それにも興味がない、わしが望むのはな」
それはというと。
「武士としてどうあるべきかじゃ」
「興味があるのはそちらであり」
「特にですな」
「禄や官位はいい」
「そうなのですな」
「そうじゃ、そうしたものに興味がある御仁もおるが」
むしろそうした者の方が多い、後藤もこれまでの人生でそうした者達を多く見てきたし会っても話してもきている。
「しかしわしはな」
「違う」
「そうしたものはですか」
「特によく」
「武士として生きたい」
「そのうえで」
「武士として死にたい、しかしこうも思う」
死ぬ時も考えつつだ、後藤はさらに話した。
「この戦で死ぬことはな」
「されませぬか」
「この度の戦では」
「まだ死なぬ」
「そうもお考えですか」
「真田殿を見てな」
それでというのだ。
「わしはこの戦では死ぬべきではないとも思っておる」
「だからですか」
「この度の戦では、ですか」
「死ぬおつもりはない」
「そうなのですか」
「まだやるべきことがある様に思う、それはな」
何かというと。
「武士として果たすべきことをしてじゃ」
「そうしてですか」
「その時にこそですな」
「死にたい」
「そうお考えですか」
「そうじゃ、大御所殿の首を取ることか」
その武士として果たすべきことは何か、後藤は考えつつ話した。
「やはりな」
「ですか、天下一の方を討ち取られ」
「それがですか」
「殿が武士として果たされること」
「そうお考えですか」
「その様にな、ではな」
後藤はここまで話してだ、前を見てこうも言った。
「先に進むぞ」
「そして、ですな」
「まずは藤井寺に入り」
「そこで、ですな」
「真田殿、毛利殿の軍勢と落ち合うぞ」
まずは藤井寺を目指すのだった、そして実際にだった。
後藤は己の軍勢を藤井寺にまで進ませた。そこで幸村と毛利の軍勢を待ったが彼が予想した通りにだった。
霧は深く周りが全く見えなかった、それで後藤は苦い顔で言った。
「この霧ではな」
「とてもですな」
「霧隠殿がおられぬと」
「とても」
「何も見えぬわ」
到底というのだ。
「これではな」
「だから真田殿の軍勢に使者を送りましたが」
「藤井寺に来られる様に」
「しかしですな」
「この霧ではその使者も」
「来られぬわ」
到底という言葉だった。
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