ペルソナ3
2058話
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の先の男は寒さに震えるでもなく、ただボーッとそこに座っていた。
「無気力症か」
俺と同じく、ゆかりの視線を追った美鶴が呟く。
一応影時間には活動してはいるのだが、それでも全てのシャドウをどうにか出来る訳ではない。
そんなシャドウに襲われた者の末路が無気力症だ。
すぐに死ぬ事がないのが、せめてもの救いか。
「救急車を呼ぶから、少し待っていてくれ」
そう告げると、美鶴は携帯で辰巳記念病院に電話をする。
普通であれば、こういう場合に病院に直接電話を掛けるなどといった真似はしないのだが、今回は無気力症……シャドウの被害者だ。
それだけに、専門の設備が整っている辰巳記念病院に電話をしたのだろう。
桐条グループ傘下の病院だけに、美鶴からの要請を断る事が出来ないというのも大きい。
もっとも、シャドウについての研究を行っている以上、無気力症の患者を引き受けないという選択肢は辰巳記念病院にはないのだが。
ただ……当然のようにそのように治療設備が整っている病院というのは、辰巳記念病院だけだ。
つまり、際限なく無気力症の患者を引き入れる事になり……であれば、いずれ受け入れられる患者の限界が見えてくる事になりかねない。
運命の日は月末で、まだ20日以上ある。
はたして、それまで辰巳記念病院が受け入れ続ける事が出来るかどうか。
ましてや、31日の決戦に勝利したからといって無気力症の患者がすぐに回復するとも限らない。
辰巳記念病院は、色々と大変な事になりそうだな。
「破滅だ……いずれ破滅がやって来る。破滅だああああああああああああああああああっ!」
ふとそんな声が聞こえた方に視線を向けると、そこでは無気力症の患者とは裏腹に元気一杯に叫んでいる男の姿があった。
もっとも、叫んでいる内容は思い切り物騒な事だったが。
何だ、あれ。
春にはまだ早いんだけどな。
もう見えなくなった男の姿を見ながら、俺はそんな風に考えるのだった。
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